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サッカーマガジン 2002年6月15日号
ビバ!サッカー ワールドカップ・スペシャル

はなやかな祭典開幕のかげに
未来の見えないFIFA暗闘

 2002年ワールドカップは、5月31日にソウル・スタジアムで、はなやかに開幕した。試合は日韓両国を舞台に熱戦を繰り広げている。しかし、開幕直前に開かれたFIFA(国際サッカー連盟)総会での会長再選をめぐる暗闘は、大会の将来に不安を感じさせるものだった。

豊かな実りの絶頂
 ワールドカップの開会式のショウは、韓国の民族文化の美しさが、現代的な色彩とリズムのなかに、ふんだんに盛り込まれていて楽しめた。
 続く開幕試合も初出場のセネガルが前回優勝のフランスを破る番狂わせを演じて、スリルにあふれていた。ワールドカップは素晴らしい。
 1930年のウルグアイ大会で芽を吹いたワールドカップは、70余年の時を経て、十分に熟れた果実を豊かに実らせているように見える。
 だが、2002年は豊かな実りの絶頂ではないか。熟れた果実は、やがて腐って落ちる。世界のサッカーという木は大きく育ったが、ワールドカップという果実は、もう収穫を終えようとしているのではないか。サッカーの未来のためには、新しい芽を育てる必要があるのではないか。ソウルの初夏の夜空のもとで、開幕のイベントを楽しみながら、そう思った。
 というのも、開幕の直前にソウルのヒルトン・ホテルで開かれたFIFA総会での、みにくい暗闘が頭にこびりついて離れないからである。FIFA総会では、ゼップ・ブラッター会長が再選された。しかし、その裏側ではFIFAの財政の不透明さを追求した反対派との激しい争いが展開された。
 これが、単なる権力争いなら、よくあることである。しかし今回は、行き過ぎた商業主義のバブル崩壊という、きびしい現実が背景にある。
 それを忘れたような権力の駆け引きは、FIFAの未来に不安を感じさせるものだった。

ブラッター会長の再選
 5月29日のFIFA総会の模様は、ソウルの国際メディア・センターのテレビ画面で見た。一般に放映されている中継ではなく、大会取材の報道関係者のための内部中継である。
  ブラッター会長は、大差で再選されたあと「これからは、一つの家族として団結しよう」と訴えた。そして出席している人びとに、立ち上がって両手をつないで高く掲げて団結を示そうと呼び掛けた。
 しかし、メディア・センターで、いっしょに中継画面を見ていたヨーロッパの記者の間からは、あざけるような笑い声が起きた。テレビの画面は、手をつないで掲げている人たちをクローズアップした。ブラッター再選に反対していた人びとが、しようことなしに手をつないでいる表情は、ありありと映っていた。これは茶番劇だった。これからFIFAが団結して危機を乗り切ることは期待できそうにない。
 ブラッター会長に対抗して立候補したのはアフリカ・サッカー連盟会長であるカメルーンのイサ・ハヤトウ氏である。これをサポートしたのはヨーロッパ・サッカー連盟のヨハンソン会長(スウェーデン)とアジア代表のFIFA副会長である韓国のチョン・モンジュン(鄭夢準)氏だった。
 しかし、この3人は、アフリカ、ヨーロッパ、アジアの票をまとめることができなかった。投票は加盟国の1国1票である。大きな国も小さな国も同じ権利がある。
 票決の結果は139対56で、ブラッター氏の圧勝だった。

バブル崩壊の結末は?
 会長選には3つの背景があった。
 一つはゼンルフィネン事務総長がFIFAの財政不正疑惑を内部告発したことである。もう一つはヨーロッパ内でのブラッター氏への反感である。そして第3には、反対勢力がアジアとアフリカの力を借りようとしたことである。疑惑があり、3つの地域連盟の有力者が連合した。にもかかわらず、ブラッター会長の地位は揺るがなかった。なぜだろうか? ブラッター氏は各国のサッカー協会に、1協会百万ドル(約1億2000万円)の援助をしてきた。これが発展途上の国と地域にとっては非常に大きな影響力を持ったのだと思う。ブラッター会長は、これを今後も続けると約束した。
 しかし、である。その資金は、ワールドカップのテレビ放映権の法外な値上がりによって得られたものである。広告などの商業的な権利金もテレビ放映にともなっている。
 ところが、FIFAの代理店だったISLは前年に倒産し、2002年と2006年のワールドカップのテレビ放映権を競り落としたドイツのキルヒも大会を前につぶれた。
 世界のスポーツのバブルは、終わったのである。
 バブル崩壊後のFIFAをどのように建て直し、ワールドカップをどのように運営するかが、緊急で、かつ重要な課題のはずだった。そういう議論は今回のFIFA総会では権力抗争のかげにかくれていた。
 FIFAの未来には、不安がいっぱいである。


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