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サッカーマガジン 2002年5月29日号
ビバ!サッカー

ワールドカップの大成功を
地元の人が楽しめる大会に!

 開催都市のあちこちに「ワールドカップを成功させよう」という標語が目に付く。でも、大会の成功ってなんだろう。テロもなく、フーリガンの騒ぎもなく、試合が無難に行なわれて、選手たちが無事に帰国すれば成功なんだろうか。そうであれば、まず成功は疑いないと思うけど。

無事ならいいのか?
 ワールドカップ開幕を控えて、ぼくの出身地の新潟で2002年ワールドカップ新潟推進委員会の総会があった。そこで講演をすることになって、東京の上野から上越新幹線で出掛けた。新潟駅前に県のPR塔が立っていて「ワールドカップを成功させよう」と大書してある。「うーむ、お前もか」である。
 こういうスローガンには、あきあきしている。開催地のどこに行っても「成功させよう」と官製の標語が掲げられている。ワールドカップだけではない。アジア競技大会やユニバーシアードが開かれた都市でも、同じような標語があふれていた。毎年開かれる国民体育大会でも同じである。
 そして、結果として「失敗」した大会があったなんて聞いたことがない。いったい、スポーツ大会の「成功」あるいは「失敗」とは、なんなんだろうか?
 たぶん、選手たちが無事にやってきて、競技が無事に行なわれて、選手たちが無事に帰ってしまえば成功なんだろう。
 それで「成功」なんだといえば、ぼくの考えでは、ワールドカップの日本開催は99%成功は疑いない。各都市とも準備は整っている。心配があるとすれば、某スタジアムの芝の状態だが、この程度の問題は、きっと解決するだろう。
 フーリガンは、わが当局の厳しい規制で、きっと押さえ込むに違いない。もっとも、ぼくは、フーリガンは日本には来ないと確信している。
 心配なのはテロだが、日本をテロが襲う確率は1%もないと思う。

楽しくなければ…
 無事に試合が行なわれれば、それで成功だというのであれば、それも結構だと申しあげる。その「成功」は請け合ってもいい。
 でも、その程度の成功で満足してはいけない。ぼくはワールドカップの「大成功」に期待している。スローガンは「ワールドカップを大成功させよう」である。
  じゃ、大成功とはなにか。
 それは楽しくワールドカップを開催することである。
 楽しむのはだれか。
 それは、まず第一に開催都市の人たちでなければならない。地元の人たちに、ワールドカップという世界のお祭りを楽しんでもらいたい。
 数年前に新潟の開催準備を相談しているとき、ぼくは新潟駅から競技場のビッグスワンまでの道を、試合の日は歩行者天国にして、沿道に参加国の食べ物やお土産の屋台を並べて、行きも帰りも楽しみながら歩いてもらうことを提案した。40分くらいかかるので、必ずしも近いとはいえないのだが、楽しみながら歩けば適当な距離である。
 この提案をしたときは、だれも反対はしなかったのだが、結局、これは実現しないことになった。警察や沿道の人びとがフーリガンの騒ぎを恐れたためだそうだ。
 フーリガンなんて来ないよ!
 マスコミが、あるいは警察が、過剰に騒ぎ立てているだけだよ。
 「フーリガンのまぼろし」におびえて、楽しいお祭りを台なしにしないように祈っている。楽しくなければワールドカップじゃないよ!

新しい文化を!
 神戸のウイング・スタジアムにも同じような事情がある。ここは新しくできた地下鉄の駅から近いが、近すぎることに問題がある。試合が終わったあと、4万人近い人びとが駅に殺到するおそれがある。
 そこで、JR神戸線(山陽本線)の兵庫駅から20分程度の距離で、歩くには適当である。
  5月2日に行なわれた日本対ホンジュラスの試合のとき、ぼくも兵庫駅から行きも帰りも歩いて見た。
 行きはなかなか快適だった。歩行者天国になっている。分かりやすい行き先表示が出ていたが、みなが、ぞろぞろ歩いていくので、それについていけばいい。迷う心配はない。
  途中に飲食店もあり、時間があれば腹ごしらえをしてから、スタジアムへ乗り込むところである。
 帰りは、ちょっと様子が違った。
 ぼく自身は、トルシエ監督の話を聞くなど試合後の取材をして遅くなった。もう人びとは散ったあとで、道路では警官たちがフェンスなどのあとかた付けをしていた。沿道のお店では、ブルーのユニホームを着た人びとがジョッキを傾けていた。試合は3対3の引き分けだったので、その評価をめぐって、おおいに議論を戦わしていたのだろう。
 こういう楽しみ方が、ワールドカップのあとに、ヴィッセル神戸の試合のときに残るといいなと思う。そうなれば、ワールドカップが神戸に新しい文化を残すことになる。そうなったら、ワールドカップは、大大大成功である。


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