ワールドカップに出場するブラジルが、キャンプ地に広島を選ぶ条件として5億円を要求したという記事が新聞に出た。キャンプ誘致をめぐる札束合戦の噂は、前から流れていたが、具体的に大きな金額が表面に出たのはめずらしい。はたして真相はどうなのか。
ブラジルの代理人が
その記事は12月19日付けの朝刊に掲載されていた。大阪印刷の複数の全国紙の社会面で、相当に大きな扱いだった。
「ワールドカップキャンプ、ブラジル側5億円(150万ドル)要求、選手ギャラ…そんな無茶な」と一つの新聞の見出しにあった。
この話が表面化したのは12月18日に開かれた「ワールドカップキャンプ広島招致委員会」の会議で報告されたからである。この招致委員会の会長は広島商工会議所会頭さんだというから、ワールドカップ出場チームのキャンプ地誘致に広島市が財界の協力を求めて熱心に取り組んでいるらしい。
5億円とは金額が大きいが、この手の話は2年ほど前から各地で聞いていた。予選が行なわれている最中で、まだ決勝大会出場権が確定していないうちから「出場国に決まったら」ということで、話が持ち込まれていた。
持ち込んでくるのは、その国のサッカー協会そのものではない。代理人と称する人物が仲介を申し出てくる。
代理人というから、正式の委任を受けて、その国のサッカー協会を代表しているのかというと、そうとも限らない。本国側の協会には「日本で顔が利くから、お金をとれるようにしてやる」といい、日本の自治体に対しては「お金を出せばチームを連れてくる」と持ち掛ける。
今回の広島への話も、ブラジルの代理人から持ち込まれたということである。
広島側は支払い拒否
代理人がすべて怪しげだというわけではないが、日本側の自治体側に付け込まれる余地があったのかもしれない。
日本各地の自治体は、サッカーの前例や海外の事情に必ずしも詳しくないし、外国との交渉にも慣れていない。そこへ、その国の言葉を話すことのできる日系二世や三世の「代理人」が言葉巧みに現われれば「頼んでみよう」ということになるのは自然である。
さて、広島では「税金や財界のお金を投入するのは、市民の理解が得られない」と拒否することにしたという。
拒否するのは当然である。ブラジルの広島キャンプが、広島にとってメリットがないとは思わないが、5億円は法外である。広島の招致委員会は、キャンプ地誘致に5億円の価値があるかどうかを見極める必要がある。
代理人という人物は「広島が断るなら愛知県の豊田市が名乗りを上げているから、そちらに決める」と言ったという。広島市と豊田市を競わせて条件を吊り上げようとしているわけである。
これは駆け引きである。日本のお役所の仕事には、なじまないかもしれないが、相手は商売をしようとしているのだから、こちらも損をしないように気をつけたほうがいい。
広島が拒否した結果、豊田市にとられてしまうことになるかもしれない。それならそれでいい。「高い買物をしないですんだ」のだから、別に悔しがることはない。
広島側の条件
広島市は誘致を断念しないで、別の条件を考えている。
ブラジルがキャンプ中に地元のサンフレッチェと公開で試合をする。その収益の全額を提供しようというのである。試合の収入は7千万〜9千万と見込んでいる。そのほかに滞在費の補助として3千万円の負担も検討する。
この条件は悪くない。
ブラジルの試合を見ることができるのは、広島のファンにとって、ありがたい。ブラジルの方も練習試合の機会を得ることができる。双方に利益がある。サンフレッチェに対するギャラはどうするのか気になるが、これは別途考えるのだろう。
ところで、ワールドカップ決勝大会の出場国に対して、FIFA(国際サッカー連盟)は、試合数に応じてギャラを支払うだけでなく、旅費と滞在費を負担する。したがって出場国がキャンプ地に、滞在費などを負担させるのは二重取りである。
ただし、過去の大会をみるとブラジルは現地での滞在に、かなりの費用をかけている。ちょっと離れたところの大きなリゾートホテルを借りきっている。遠くてもやってくる熱心な報道陣やファンにある程度のサービスをしながらも、適切にコントロールできるようにするためである。外部の人が自由に入り込めないように囲われたところで、練習のためのグラウンドも必要である。
だから、多少の応援が必要なのは理解できるが、代理人の言いなりに高額を支払う必要はない。これはサッカーの常識ではない。
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