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サッカーマガジン 2001年9月12日号
ビバ!サッカー

スポーツ科学センターを見て
夢の施設を新しい出発点に!

 東京の西が丘サッカー場と同じ敷地のなかに「国立スポーツ科学センター」が完成、10月から本格的に活動をはじめることになった。日本のスポーツの長年の夢が実現した豪華施設である。サッカーに直接の関係はないが、これを有効に活用するために紹介して感想を記しておこう。

最先端の研究施設
 地上7階、地下2階、あわせて9階建の豪壮なビルディングだ。サッカーのフィールドと同じくらいの広い敷地にデーンと建っている。東京都北区西が丘にできた「国立スポーツ科学センター」である。8月7日と9日に開所記念行事があった機会に見学してきた。全面的な活動は10月から、ということだった。
 このビルディングのなかに、おおまかに言って5つの施設がある。
 第1はトレーニング施設で、たとえば50メートルの競泳用プールとは別に、30×25メートル、水深およそ3メートルのシンクロナイズド・スイミング専用プールがある。射撃場もある。
 第2はスポーツ科学研究施設である。コンピューターを駆使していろいろな測定や実験のできる部屋がある。陸上競技の種目を室内でやって。それをビデオや機械で測定してコンピューター処理してデータを出せる実験室内練習場もある。
 第3はスポーツ医学研究施設。内科はもちろん歯科や婦人科もあってちょっとした病院のようである。
 第4はスポーツ情報研究施設。ビデオを編集したり、データをコンピューターで分析したりして選手やチームに提供できる設備がある。
 第5はサービス施設。レストランや宿泊室などだが、そのなかに低酸素宿泊室がある。酸素の少ない状態の部屋を作り、そこに寝泊りして、高地トレーニングをするのと同じような効果が得られるようにしてある。
 最先端の設備を完備しているという点では、新しいだけに、おそらく世界一だろう。

現場を忘れるな
 この国立スポーツ科学センターは、スポーツ医・科学の成果をトレーニングの現場と結びつけて競技力を向上させるための施設と組織である。簡単にいえば「科学のサポートでオリンピックの金メダルを倍増させよう」というねらいだ。
 「こういう施設がほしい」というのは、20年以上前から日本スポーツ界の夢だった。ぼくは新聞社のスポーツ記者だったときに、そのためのキャンペーンの連載を企画して担当したことがある。 1986年のメキシコ・ワールドカップヘ行く途中に米国のコロラドスプリングスに寄って、米国オリンピック委員会のトレーニングセンターを取材したりした。そのキャンペーンが、15年後に形になったのだから感無量である。
 ところで、この施設は、サッカーに直接の関係はない。ここをトレーニングのために利用するのは、おそらくシンクロナイズド・スイミングとレスリングになるだろうと思った。どちらもナショナルーチームのための練習場がなくて苦しんでいた競技だからである。サッカーのためには、Jヴィレッジをはじめ、あちこちに練習できる場所がある。
 施設の内容や場所から見て、ここはトレーニングセンターというより研究所として機能するのではないかと思った。
 研究はすぐに役立つ成果を生み出すとは限らない。それはそれでいいのだが「研究のための研究」に終わらないように、スポーツ活動の現場との結びつきを忘れないようにしてもらいたいと思った。

トレセンを別に
 この施設は「サッカーに直接の関係はない」と書いたが、サッカーとの因縁は深い。
 第1に、大学リーグでおなじみの西が丘サッカー場と同じ敷地内にある。
 第2に、この施設の運営に、おそらくは「スポーツ振興くじ」つまりトトの益金を当てにしている。
 第3に、この組織の初代センター長は日本サッカー協会理事で、元国際審判員の浅見俊雄さんである。
 というわけで、浅見センター長が手腕を発揮して、国立スポーツ科学センターが現場から遊離しないように、うまく運営してくれるだろうと期待している。
 とはいえ、この施設はどうみてみても「研究向き」である。
 コロラドスプリングスの米国オリンピック委員会の施設は、選手たちが練習するためのトレーニングセンターで、柔道やバレーボールなど米国ではメジャーでないスポーツの選手たちが多く利用していた。
 シドニー・オリンピックのときに見学したキャンベラのオーストラリア国立スポーツ研究所も、主としてトレーニングのための施設だった。ここにはスポーツ博物館が併設されていて、大衆との結びつきをはかっていた。これはアイデアである。
 それに比べると日本のスポーツ科学センターは、アカデミックな色が濃すぎるように思う。
 ぼくの希望は、この施設をもっと大衆にPRすること、さらにトレーニングセンターを全国各地に別に作ることである。


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