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サッカーマガジン 2001年9月5日号
ビバ!サッカー

日本−豪州戦の成果を考える
トルシエ軍団の厚い層に感心

 AFC/OFCチャレンジカップと銘打った日本対オーストラリアの試合が8月15日に静岡スタジアム・エコパで行なわれた。日本が3−0で勝ち。海外組不在でも、しっかりした試合ができたのは収穫だった。トルシエ監督率いるチームの選手層が厚いことを示した試合だった。

MVP服部は妥当
 チームの表彰式が行なわれる前にMVP(最優秀選手)の表彰だけが、そそくさと行なわれた。8月15日の静岡スタジアム・エコパ。日本対オーストラリアの試合のあとである。
 「ふふん。テレビ放映が終わらないうちにスポンサーの表彰だけは間に合わせたんだな」と記者席で勝手に邪推した。
 それはともかく「MVPに服部年宏が選ばれたのは妥当だ」と思う。服部は、トルシエ軍団がこの試合で見せた二つの成果の象徴だった。
 成果の一つは層の厚さである。
 この試合には海外に行っている選手は呼び戻さなかった。中田英寿、西沢明訓、稲本潤一、小野伸二、高原直泰、広山望。いずれも日本代表で実績のある、あるいは呼び戻して使ってみたいプレーヤーである。
 しかし、彼らがいなくても「地元組」がそのあとを埋めた。5試合ぶりに日本代表で先発した服部は、その代表格だった。
 もう一つの成果は「一人のプレーヤーがいろいろな役割をこなすことができる」ようになっていたことである。これはトルシエ監督が就任当初から言っていたことである。
 服部は、これまで守備の最終ラインに入ったこともあり、いわゆるボランチとして中盤の底で守備的な役割を務めたこともある。どちらかといえば「守備の人」だった。それが今回は左サイドに起用された。そして、攻撃にも積極的にからんだ。
 どのポジションもできる、守りも攻めもできる。服部はその点も象徴していた。

流れを決めたプレー
 左サイドは、昨年は中村俊輔が活躍し、中村がケガで休んだあと小野伸二が起用されて、みごとにその穴を埋めたポジションである。今回は俊輔が復帰していたが、トルシエ監督は俊輔をベンチに置いて服部を起用した。その服部が、俊輔や伸二とはまた味わいが違う、そしてある意味では2人を上回る活躍を見せた。一つのポジションにトップクラスで使えるプレーヤーが3人もいる。これはトルシエ監督が育てたチームの層の厚さを示している。
 服部のプレーで「いいぞ」と思った場面がある。28分ごろ、左サイド後方で相手と競り合い、奪ったボールを、すかさず相手守備ラインの裏側に長いパスで送った。そこに柳沢が走り出ていた。相手のディフェンダーなどのミスで間接フリーキックになったが、そうでなければ、日本の2点目になったかもしれない場面だった。
 相手と激しくボールを奪い合いながら、奪い取った瞬間に、遠くのスペースを見ている。そこに柳沢が走り出ることが、ひらめいている。そして、すかさず正確なロングパスを送る。守りを一瞬にして攻めに変えた。その守備力と戦術的判断力とパスの技術がすばらしい。
 この試合の立ち上がり10分くらいは、オーストラリアが攻めに出て日本はリズムをつかめなかった。19分に柳沢が先取点を挙げて日本のリズムになりかけていたが、そのあとの服部のこのプレーは、試合の流れを決定的に日本側に引き寄せるものだったように思う。

日本代表は上向き
 19分の1点目のとき、服部は目立たなかったが、からんでいる。
 このゴールは右サイド後方で、森島が松田にボールを渡して前方に走り出て縦パスをもらい、相手のディフェンダーを振り切ってゴール前に送ったところから生まれた。森島の積極的なプレーがチャンスを作った得点だった。ゴールを決めたのは逆サイドから詰めた柳沢だったが、その内側に服部も走り込んでいた。
 53分の2点目は服部のゴールである。左サイドから内側ヘドリブルで持ち込み、ゴール正面でポストになっていた柳沢とのワンツーで逆側へ抜け、そのまま右足でシュートした。「守備の人」が、その気になれば「攻撃の人」にもなれることの証明だった。
 「柳沢からいい感じでワンツーが返ってきて、まあ打っちゃおうと」思って、ほんとは左が利き足なんだけれど、すかさず右足でシュートしたのだという。「いい感じ」のパスを返した柳沢もいいし、それを感じ取った服部もいい。トルシエ軍団は息が合っている。
 森島と柳沢も、この試合で確かなところをみせた。
 トップ下にも人材がひしめいている。森島のほかにヒデがいるし俊輔も伸二も使える。ワールドカップまで、どのようにチームを形作っていくのか興味深い。
 相手が、メンバーとしても体調としてもベストではなかったので、3−0の勝利を手放しでは評価できない。しかしトルシエ軍団が上向きであることは評価できると思う。


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