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サッカーマガジン 2001年8月29日号
ビバ!サッカー

創意あふれる豊田スタジアム
Jオールスターゲームで驚嘆

 Jリーグの「たらみオールスター・サッカー」を見に行って、新しい豊田スタジアムに驚嘆した。陸上競技のトラックがないのがいい。スタンドの傾斜が急なのがいい。開閉式の屋根の新しいアイデアがいい。ここで、サッカーの大きなイベントを毎年やりたい。

スタンドの急傾斜
 Jリーグ「たらみオールスター・サッカー」が行なわれた豊田スタジアムの記者席からフィールドを見下ろして驚いた。スキー場の上級コースの上から下を見た感じで足が震えた。観客席の傾斜は38度だという。
 スタンドは2層になっていて、記者席はメーンスタンドの上の層にある。上の層がまた2階に分かれている。その下の方、つまり4階建ての3階にあたるといってもいい場所の前のほうに席を取ったのだが、転がり落ちそうで、こわかった。もちろん最前列には柵があって、実際には転がり落ちる危険はない。
 高い場所だからフィールドまでの距離は遠くて、選手はかなり小さく見える。しかし、西が赤、東が青のそれぞれ一色のユニホームに、大きな背番号がついていたから、十分に識別できた。真上近くから見下ろす感じで布陣も、よく分かる。
 4万人を超すスタンドの大スタジアムの場合、1階はフィールドに近いから選手がよく見えるが、上の階はフィールドから相当な距離になる。それを見やすくするには、スタンドの傾斜を急にするのが最善の解決策である。ヨーロッパや南米のサッカー・スタジアムのスタンドには急傾斜のものが多い。
 「日本でも急傾斜のスタンドを」と、ずいぶん前から、ぼくは主張していたのだが「建築法規にしばられてできない」と聞かされていた。しかし、豊田スタジアムで可能だったところを見ると、そうではないらしい。これこそ理想のサッカー・スタジアムである。

折りたたみの屋根
 豊田スタジアムは、開閉式の総屋根付きである。スタンドの上に屋根があるだけでなく、フィールドの上にも開閉式の屋根があって、閉じれば室内競技場になる仕組みである。 
 この開閉式の屋根に新しいくふうがあった。
 世界初の開閉式の屋根の競技場はカナダのトロント球場で、日本では福岡ドームが同じ方式である。これは大きな鉄の屋根が、重々しくスライドして開閉する。閉まればぴったりと密閉されたドームになる。
 豊田スタジアムは、まったく違う新しい方式である。 
 メーンスタンドとバックスタンドには、固定した屋根が張り出している。その張り出した両側の屋根のフィールド側の縁が平行したレールになっていて、そのレールを使って、フィールドの上を折りたたみ式の屋根がゴール裏のほうから繰り出されてくる。 
 この折りたたみの屋根の方式はアコーディオン型である。別の表現をすれば、扇子を折りたたむように伸縮する。 
 屋根の材質は鉄とは違って軽量である。そうでなければ折りたたみはできない。 
 軽量だから風に吹き飛ばされるおそれがある。それを防ぐために、風の通り道を作らなければならない。というわけで完全密閉のドームにはできない。 
 でも野球場と違って、サッカー場は完全密閉のドームである必要はない。雨のときに芝生が泥んこにならない程度でいい。

芝生維持が心配
 ところが、その芝生がよくなかった。十分に根付いていないようで、すぐはげる。選手はすべって、やりにくそうだった。
 完成したばかりで、芝生の育ちが十分でなかったのかもしれない。それなら解決可能だが、ひょっとしで日当たり不足ではないかと心配になった。
 天然芝に必要なのは、たっぷりの太陽光線と水である。水は人力でまくことができるが、太陽光線は自然に任せなくてはならない。豊田スタジアムの開閉式の屋根は、開いたときの開口部が、芝生にとっては十分な大きさではないのかもしれない。見たところ、南側からの光線は、たっぷり注ぎこむだろうと思ったが、太陽が回りこんだときの日当たりが悪いのだろうかと考えた。そうであれば、せっかく新しいアイデアの屋根なのに残念である。太陽光線が不十分でも、ちゃんと根付くような芝の新品種を作り出すほかはない。
 カラーの大スクリーンが、ゴール裏から、これもスライドしてハーフラインの上あたりまで空中を移動できるようになっているという話だった。スポーツ以外のイベントに使うためのくふうである。
 市街地のすぐ近くにあるが、トヨタ自動車の町だけに、周辺の車の流れはスムーズだった。観衆は、市内の4つの工場の駐車場に自分の車を停めて、バスでスタジアムに往復するパーク・アンド・ライドでさばいていた。
 いろいろと新しいくふうのあるユニークなスタジアムである。


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