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サッカーマガジン 2001年8月22日号
ビバ!サッカー

日韓草の根交流を続けよう!
共催を未来に生かすために!

 夏休みの子どもたちの日韓サッカー交流が、相次いで中止になっている。例の教科書問題のとばっちりである。国際親善に胸をふくらませていた少年少女の気持ちが傷ついたことに心が痛む。「スポーツ外交は無力だ」と思う。でも、あきらめずに未来を信じて粘り強く努力したい。

相次ぐ交流中止
 暑いさなかではあるが、子どもたちは元気いっぱいにフィールドをかけ回っている。その様子を見ると「人間の未来は明るいぞ」と元気が出てくる。
 でも、今年は、照りつける太陽の向こうに暗い雲が見えるのが気になる。単なる夕立ちであればいいが、営々と築き上げたものを一瞬にして吹き飛ばす台風になるのではないかと心配だ。
 夏休みを利用して毎年、行なわれている各地の日韓交流行事がつぎつぎに中止になっている。その多くが少年サッカーである。日本の子どもたちが韓国を訪問する。韓国の子どもたちが日本の町にやってくる。サッカーの試合をし、夜はキャンプファイヤーを囲んで歌をうたい、異国の家庭に分宿する。そういう交流が市や町の単位で行なわれていた。それが今年は中止に追い込まれている。
 文部省が新たに認めた中学歴史教科書の記述に、韓国側が抗議をしたのがきっかけである。日本側が全面的な修正には応じなかったので、韓国の当局が韓国内の市町村に交流をやめるよう勧告したらしい。とばっちりが子どもたちのサッカーに及んだのが残念である。
 少年サッカー交流は、これまで非常にいい結果を残してきている。子どもたちは、実際に相手の国に行き人びとの生活を自分の目で見ることによって、また体験することによって、教科書から学ぶ以上のことを学んできた。ワールドカップ共催への影響よりも、こちらのほうが心配である。

J・K協力の提案
 6月にソウルで韓日サッカー・ジャーナリスト・セミナーが開かれたとき、すでに教科書問題は厳しい状況になりかかっていた。それでも、セミナーのなかでは、過去を冷静に見つめながらも、明るい未来に期待しようという前向きの提案がつぎつぎに出た。 
 JリーグとKリーグの協力についてのアイデアがいくつか出た。
 いっしょにソウルの会議に出た大住良之さんが、まとめてくれたものが手元にあるので紹介しよう。
1.JリーグおよびKリーグで、お互いの国の選手を外国人枠からはずす。
2.Jリーグの試合を韓国で、Kリーグの試合を日本で開催する。
3.Jリーグ、Kリーグのクラブが年間数試合の「交流試合」を行ないその結果をそれぞれのリーグの成績に加算する。
4.サッカーくじ(韓国でも今秋からスタート)に、お互いの国の試合結果を含める。
 いずれも、その気になれば、実行可能な提案である。外国人枠についてはヨーロッパでは、EU域内の枠は撤廃されている。ヨーロッパ各国の対立抗争の歴史は、非常に激しくまた長期にわたってきた。サッカーのスタイルは、イタリア、ドイツ、フランスなどで非常に違う。それでも協力は可能なのである。日韓でできないわけがない。
 サッカーくじに、両国の試合結果を加えようというアイデアもおもしろい。お互いに相手の国を知ろうという気持ちになるだろう。

スポーツ外交
 プロリーグの協力の話だけが出たわけではない。次のような意見も出た。
5.代表チーム、プロクラブだけでなく、あらゆるレベルのチームの相互訪問を促進する。
6.日韓からスタートし、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)と中国も加えた強力な北東アジア・スポーツ機構を構築する。
 教科書問題にくじけないで、こういうアイデアを一つひとつ、実行していくための、具体的で前向きな努力を粘り強く続けていきたいと思う。 
 「スポーツ外交」に過大な期待を抱いているわけではない。政治や経済の大きなうねりのなかでは、スポーツは、翻弄され、利用されるだけのことが多い。 
 ワールドカップ共催も、それだけでは、日韓の関係改善にいい結果を及ぼすとは限らない。 
 しかし、これまでに草の根レベルで積み重ねてきた少年サッカーの交流が、JリーグとKリーグの協力に発展し、代表チームの友好的な競争につながれば、非常に時間は掛かっても、やがて明るい未来がくるに違いないと信じている。 
 2002年の共催を本当に意味のあるものにするには、これまでに積み重ねてきたものを生かして、それをさらに発展させていくための粘り強い努力が必要である。 
 だから、日韓の少年サッカー交流中断を、非常に心配している。教科書問題を子どもたちに飛び火させないでほしい。日韓の当局とサッカー協会に打開の努力をお願いしたい。


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