韓国と日本のジャーナリストによるサッカーのセミナーが、6月19日と20日の2日間、ソウルで開かれ、招かれて出掛けた。現地の事情を実際に見聞きして、報告したいことはいろいろあるが、まずは建設中のソウル・ワールドカップ・スタジアムを見せてもらった感想から。
開かれた公共工事
ソウルで「韓・日サッカー・ジャーナリスト・セミナー」というシンポジウム形式の催しがあり、招かれて3泊4日の旅をした。共催のパートナーである韓国のワールドカップ準備状況については、日本でもいろいろ報道されているが「百聞は一見にしかず」。行ってみて、改めて、いろいろ勉強になった。
着いた翌日の午前中が空いていたので、主催者が建設中のソウル・ワールドカップ・スタジアムに案内してくれた。2002年ワールドカップの開幕式が行なわれる競技場である。まず、このスタジアムの話を報告しよう。
ソウルの中心部から約4キロ、バスで10分足らずである。
マイクロバスでスタジアムの敷地に入っていくと「弘報室→」と矢印のついた掲示が、まず目に入った。ハングルだけでなく、漢字でも書いてあるのは、日本人の見学者を考えてのことだろう。日本では「広報」と書くが、「弘報」でも同じである。英語でいえばPRという意味だ。
工事中のスタンドの下に、かなり広いスペースの展示室があって、スタジアムについての、いろいろな資料が展示してある。周辺施設を含めた立体模型もある。
小さな教室ふうの部屋があって、そこで「見学者当官」という人が、パネルを使って説明してくれる。9分間のビデオ上映がある。
まだ、工事中なのに、こんな「広報宣伝」をしているのかと、ぼくはおおいに感心した。これは「開かれた公共工事」である。
広報は日本より上
このPRは、特別の招待者のためのものではない。一般の人に工事中のスタジアムに見学してもらって、理解してもらうためのものである。
建設の主体は「ソウル特別市」である。税金を払っている市民のために、市の仕事を報せようというのであれば、その姿勢がいい。
外国人に対して宣伝しようという趣旨であれば、それもいい。あとで聞いたのだが、ワールドカップ関係のPRパンフレットは9カ国語で作っているということである。
ワールドカップを共催する日本の人びとに、とくに理解を深めてもらうねらいであれば、ますますいい。日本人観光客のグループも、ガイドさんに連れられて来ていた。
こういうようなことが、日本の公共工事でも行なわれているだろうか。ぼくは聞いたことがない。
前年の11月に新潟で「日韓サッカー・ジャーナリスト会議」を開いたとき、同じように工事中の新潟スタジアム「ビッグスワン」の見学をしたのだが、これは会議参加者のために、特別に頼んで見せてもらったものだった。パネルや立体模型による説明もあったが、工事事務所のなかだった。一般の人びとに解放された広報施設ではなかった。
新潟は、頼めば親切に便宜をはかってくれたのだから、いいほうである。「見せてほしい」と電話で問い合わせたらケンもほろろに断られた例を聞いたことがある。
ワールドカップを理解してもらおうという姿勢は、韓国の方が日本より、まさっていると思った。
新しい都市づくり
さて、スタジアムそのものだが、サッカー専用ですばらしい。12月完工の予定だが、スタンドの椅子は全部据え付けられていて、本体工事はほぼ完了していた。芝生も青あおと敷き詰められている。
収容力は6万3930席。同じサッカー専用の埼玉の6万3060席よりも多い。「サッカー専用としてはアジア最大になりました」という説明だった。
競技場の設計や設備にも、いろいろ新しい工夫があって、使いやすそうだが、もっと感心したのは、この競技場が都市計画と一体になり、将来の活用を視野に入れて建設されていることだった。
ソウル市の西側、漢江の岸辺のサンアムドン(上岩洞)の一帯で「ミレニアム・シティー」という名の街づくりをしている。高度成長期のソウルのゴミの埋立地だったナンジド(蘭芝島)の二つのゴミの山を環境を汚染しないように安定化工事をして生態公園などにした。その北側には「デジタル・メディア・シティ」(DMC)という先端科学を中心とした新しい町を作っている。
そこに隣接して、スタジアムがある。スタジアムのスタンド下には、スポーツセンターだけでなく、スーパーマーケットやシネマ・コンプレックス(複合映画館)など、隣接する町の住民に役立つ施設が入る。
スポーツを社会と市民生活の一部として考えた計画である。
「日本のスポーツ施設づくりはどうだろうか」と、しばらく考え込んでしまった。 |