アーカイブス・ヘッダー

 

   
サッカーマガジン 2001年6月6日号
ビバ!サッカー

大阪のオリンピック開催は絶望
心機一転、W杯盛り上げに力を

 大阪市の2008年五輪誘致が絶望的になった。国際オリンピック委員会(IOC)の評価委員会の報告書で北京に差を付けられたからである。このさい大阪市は見込みのないオリンピック誘致よりも、2002年ワールドカップ盛り上げに力を貸してほしい。

趙東彪氏の意見
 「大阪オリンピック絶望」という大見出しが関西の新聞におどっている日に、ソウルから古い友人が大阪にきた。韓国スポーツ記者の大ベテランの趙東彪(チョウ・ドンピョ)氏である。趙さんは韓国サッカー協会の広報委員もしている。日本語を話すのも読むのも非常に達者だ。日本の新聞をくまなく読んでもらってから、意見を聞いてみた。
 「国際オリンピック委員会(IOC)の評価委員会では大阪の交通輸送が難点だとしたらしいが、これは解決できる問題だと思うね」と趙さんはいう。
 「1988年のソウル・オリンピックのときも交通渋滞が問題だといわれたけど、あのときは、一日ごとに通行できる自動車のナンバーを奇数か偶数に制限して、うまくきり抜けた。日本人は公徳心が高いから、同じ制限をすれば協力すると思う。そうすれば車の数は半分になる。問題はないと思うけどね」
 近ごろの日本人の公徳心が高いかどうかには、いささかの疑問はあるにしても、オリンピックともなれば協力するかもしれない。 2002年のサッカーのワールドカップのときに、この手は使えないかと考えた。
 しかし、大阪の場合は車だけが問題ではない。主要な競技会場が、大阪湾を埋め立てて作った2つの人工島の上にある。島だから橋を渡らなければならない。そこで交通渋滞が心配されているのだが、そもそも、そういう島に公共投資をして将来に役立つのか、ということも批判の材料になっている。

国の支援が不足?
 「IOCの評価委員は、日本の国家的な支援が足りないという印象を持ったらしいね。ライバルの北京は政府が本気で支援しているから、それと比べられると不利だね」
 趙さんは、この10年間に3度、北京に行っている。
 「北京はどんどん変わっている。10年前に行ったときは、民家が石炭を効率悪く燃やしているので空気がひどく汚れていたけど、昨年11月に行ったときは、古い家はすっかり取り壊されて、新しいビルが立ち並んでいた。そういう新しい町づくりのなかでオリンピックの施設を計画しているから、現在はまだできていなくても、オリンピック開催が決まれば必ず立派なものを作るだろうと視察した委員たちは信じただろう」
 競技施設の点では、大阪はすでに完成している体育館などが多く、自信を持っていたのだが、あまりプラスの材料にはならなかったらしい。
 この話を聞いて、ぼくは思った。
 日本のように高度に工業が発達した国は、もうオリンピックなどを利用して、あるいは口実にして、国づくり、町づくりをする段階を通り越しているのだろう。中国のような中程度の発展途上国のほうがオリンピック開催には、ふさわしいのではないか。
 国の政府が全面的に援助しないのも、日本が成熟した国になったからこそで、それはそれでいい。大阪市が独力でやるつもりなら、それもいいが「都市が開催する」はずのオリンピックは、いまや国が応援しなければできないほど肥大化している。

スポンサーとの関係
 「大阪オリンピック絶望」の見通しは、5月15日にローザンヌで開かれたIOC理事会で候補都市に対する評価委員会の報告が公表されて明らかになった。評価委員会は5都市を視察して報告書を出し、北京とパリとトロントに高い評価を与え、大阪とイスタンブールは低く評価した。最終決定は7月にモスクワで開かれるIOC総会での投票だが、現地を視察した評価委員会の報告は尊重されるだろう。
 ぼくは、評価委員会の評価がまったく公正だと信じるほど「すなお」ではない。IOCはアジア、ヨーロッパ、アメリカ大陸から一つずつにしぼったのである。そして、アジアでは大阪でなく北京を、日本ではなく中国を選んだのである。
 なぜ日本でなく、中国か? 
 一つには、日本はすでにオリンピックを開催したことがあるからだ。中国は北京に決まれば初めてになる。オリンピックの拡大のためには、新しい国で開催するほうがいい。 
 もう一つの背景は、グローバルにビジネスを展開しているオリンピックのスポンサーにとって、市場としての日本には、もう魅力が乏しいことである。発展途上国の中国には市場としての大きな未来がある。 
 というわけで、大阪オリンピックは絶望である。 
 オリンピック招致運動のために、大阪では2002年ワールドカップは影が薄かった。大阪市も、そろそろ目をさまして、心機一転、すでに開催が決まっているワールドカップのほうに力を入れてはどうか。


前の記事へ戻る
アーカイブス目次へ

コピーライツ