オリンピックやサッカー、陸上競技などの国際大会で資金調達と運営面を請け負っていたISL社がスイスの地方裁判所から事実上の破産宣告を受けた。日韓共催の2002年ワールドカップが打撃を受けるだけでなく、世界のスポーツビジネスが、今後どうなるかが問題である。
大きな三つの影響
ISL社の危機は以前から噂されていた。2月に「経営悪化で身売りする」という記事がイギリスの新聞にのり、3月16日の国際サッカー連盟(FIFA)の理事会でも事態を心配する意見が出ていたという。
表に出たのは3月30日である。ISL社を含むISMMグループが2002年の決算で債務超過に陥ったと発表した。借金が多くなりすぎて返せなくなったということだろう。本社のあるスイスの地元の裁判所に対し、破産宣告を3カ月延期してくれるよう申し立て、その間に資金を援助してくれる提携先を探すということだった。
裁判所はこの申し立てを4月11日に却下した。ISMMは上訴する方針だというから、この時点で最終的に決まったわけではないが、破産宣告も同然だという報道である。
代表的な国際スポーツビジネスの会社の行き詰まりは、世界のスポーツにどういう影響を及ぼすだろうか。考えてみる必要のあることが、三つ頭に浮かんだ。
第一は日本の新聞に大きく取り上げられている2002年ワールドカップヘの影響である。しかし、問題は一つの大会だけではない。
サッカーや陸上競技やオリンピックが、今後も広告スポンサーやテレビ放映権から資金を得られるかどうかが続いて問題になる。
そして、こういうスポーツビジネスの時代が終わったのか、それともISLに代わる会社が世界のスポーツを握る時代になるのかが第三の重大な問題である。
国際的な大企業
ISLは「インターナショナル・スポーツ・アンド・レジャー」の頭文字である。1982年にスポーツ用品会社アディダスのダスラー社長と日本の広告会社電通の手で、スイスのルツェルンに本社を置いて設立された。
はじめのころの主な仕事は、国際スポーツ団体のために広告スポンサーを探してやり、国際大会の競技場に看板広告を出すことだった。ただし、このアイディアはISLが考えだしたものではなく、1970年代にイギリス人が作ったウェストナリー社がやっていた仕事を、いわば横取りした形だった。ワールドカップでも1982年スペイン大会ではウェストナリーが仕事をしている。
広告スポンサーは、大会の運営にも大きな関係がある。たとえば、マクドナルドがワールドカップの公式スポンサーになっているのに、競技場内のレストランの経営はバーガーキングでは、ぐあいが悪い。コンピューター関係でA社がスポンサーになっている場合に大会管理にB社のシステムを使うわけにはいかない。
というわけで入場券の販売なども含めて大会の運営にも手を広げることになった。
さらにテレビの放映権の獲得や制作にも手を出した。つぎつぎに関連会社を作って、スポーツビジネスは国際的な大企業になった。
ISMMは、そういう関連会社のうえにかぶさっている会社で「インターナショナル・スポーツ・メディア・アンド・マーケッティング」の頭文字である。
因果はめぐる
このスポーツビジネスの会社は、ワールドカップの主催者であるFIFAから、資金集めも運営もテレビ放映も一手に独占的に請け負っていた。これが行き詰まったのだから、日韓共催のワールドカップが影響を受けないわけはない。FIFAと日韓の組織委員会は、これから、その後始末と善後策のために火を噴くことになるだろう。
それだけではない。
FIFAや国際陸上競技連盟などのスポーツ団体は、この会社が集めてくれた資金で、いろいろな仕事をしてきた。コーチの養成や発展途上国のスポーツ普及事業なども行なってきた。これがまた、役員たちがいろいろな国に恩を売って、会長や理事になるための工作の材料にもなっていた。いいこともあれば、弊害もあった。
スポーツビジネスは、しょせん、広告やテレビ放映権のバブルのうえで踊っていたものだ。これが崩壊すれば、商業主義の弊害がなくなり、スポーツが健全な姿にもどるだろう――というような「古き良き時代」の人びともいるかもしれない。
しかし、そうはなりそうもない。
一つに会社がつぶれるのを待っていた別のスポーツビジネスの大手がいる。そこが横取りを策すだろう。倒産した会社のいいところだけを買い取ってビジネスを続けるだろう。ISLがウェストナリーの仕事を奪ったときは、倒産があったわけではないが、今回はISLが自ら行き詰まった。因果はめぐる世のならい。次をねらっているところがある。
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