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サッカーマガジン 2001年4月25日号
ビバ!サッカー

グローバル化の裏の落とし穴!
ISL危機でW杯は大丈夫か

 ワールドカップの資金面を事実上、請け負っているISL社が、債務超過で倒産の危機だという。これは、スポーツの商業主義がグローバル化したことの裏側に潜んでいた落とし穴が明るみに出たもので、単に日韓共催の2002年は大丈夫かでは済まない問題である。

サッカーの社会学
 日本スポーツ社会学会の大会が、3月26日〜28日の3日間、茨城県のつくば市で開かれた。1年前のこの学会で、サッカーについての研究発表が目立ったことを、このページで紹介したことがあるが、今回は、なんとサッカーがメーンテーマとして取り上げられ、最終日に「サッカーの社会学」というセッションがシンポジウム形式で行なわれた。
 日本と韓国の研究者のほかに、スコットランドのエジンバラ大学のジョン・ホーン先生が招待されて出席した。ホーンさんは、日本のJリーグに興味をもって研究をしている方である。
 まず、女子サッカーのコーチや審判の経験がある鹿屋体育大学の前田博子さんが、ワールドカップについて悲観的な見通しを述べた。
 日本では、会場になる各地の開催地が多くの犠牲を払っているが、その見返りは乏しいだろう。というのは、2002年に遠い日本まで来てくれる観光客は少なく、その町がメディアによって世界に紹介されることも期待できないからだ――という趣旨だった。
 ホーンさんは、ワールドカップのような「メガ・イベント」はグローバルなシステムの発展を促すから、2002年の大会を、いろいろな面から、いろいろな学問分野の協力で、国際的に研究する必要があると強調した。
 このサッカーのセッションだけでなく、学会全体のテーマが、いろいろな分野でのグローバル化の社会的影響ということだった。

商業主義の弊害
 前田さんのいうように、日本の場合、開催地の自治体がかなりの負担がかかっているのに、見返りが乏しいのは事実である。
 一方、ホーンさんのいうように、スポーツの大きなイベントではグローバル化が進んでいる。それが、スポーツの将来の発展に、どのような影響を与えるかを本格的に研究する必要がある。
 そこで、ぼくがフロアから質問を試みた。
 「開催地は犠牲を払って協力しているのに、やりたいことをやらせてもらえないのが実情だ。それは大会主催者のFIFA(国際サッカー連盟)が、大会運営のいろいろな権利を、スイスに本社のあるISLという会社に売り渡したためだ。ISLの商業的な利益を守るためには、開催国や開催地が自分たちのアイディアで勝手に仕事をされては困る。結果として、商業主義のグローバル化がスポーツの地域での発展を邪魔しているのではないか?」
 ホーンさんは、そのことを、よく心得ていた。
 「いい質問だ。FIFAもそのことに気付いている。だから方針を変更して、開催地がそれぞれ開幕のイベントを計画するのを認めたのではないか。ワールドカップは1990年のイタリア大会以来、エージェント主導になっている。その結果、大会運営が型にはまったものになり、地域の人びとが運営していたころのよさをなくした面もある。これはグローバリゼーションには犠牲もある、ということではないか」

地域の仕事を邪魔
 3日後に東京スタジアムにJリーグの試合を見に行ったら、ホーンさんに、ばったりあった。その日の朝刊最終版に「FIFA代理店のISLが破産の危機」という記事が載っていた。そのことをホーンさんに言ったら「おやおや、それはいいニュースなのかな」と冗談を言った。
 ISLはFIFAに大金を払って、ワールドカップのテレビ放映権やテレビ中継の制作や広告スポンサーの権利をもらっている。ISLは代理店として、その権利をさらにテレビ会社や広告主の企業に買ってもらわなければならない。それが思うように売れなければ倒産の危機である。
 ワールドカップの資金集めをしている会社なのだから、2002年へ影響する可能性もある。そうなったらたいへんだ。「いいニュース」ではないことは、もちろんだ。
 しかし「商業主義の当然のむくいだ」と思う人もいるに違いない。
 大会運営の権利をISL社がいろいろ持っているので、開催地が地域振興のために考えた計画がつぎつぎにクレームがつく。「FIFAワールドカップ2002」のロゴやマークを使ってはいけない、スポンサーを勝手につけないでくれ、というようなことである。そうなると、開催地は、ヨーロッパからのリモコンでISLの商売の下請けをやらされている気分になる。
 今回のISLの問題は、商業主義のグローバル化の裏側にあった落とし穴を、明るみに出したものではないだろうか。


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