日本代表チームがフランスに遠征して5対0で完敗した。「日本のサッカーは、とうていダメだ」と、がっかりしたり、憤慨したりした人が多いだろう。だが、本当に日本代表はダメだったのだろうか。理性的に考えれば、多くの経験をし、収穫も多かったのではないか。
世界一の強豪と対戦
「どれくらいのスコアになると思いますか?」
日本代表チームがフランスと対戦する前に、東京北千住の読売・日本テレビ文化センターで「ビバ!サッカー講座」があった。そのときに受講生からこうきかれた。
「ビバ!サッカー講座」は、このぺージの熱心な読者の月2回の研究会のような集まりである。したがって受講生といっても、みな、ぼく以上のサッカー通だ。
ぼくは答えた。
「勝てないだろうが、負けるにしても1対0ならいいね。日本が1点とって2対1ならそれもいい」
これは希望的観測だった。3月24日の夜、パリ郊外のサンドゥニ競技場で行なわれた国際親善試合は5対0の完敗だった。世界一のチームとアジア一のチームとの差は大きい。
しかし、である。
日本代表チームにとって、これは失望落胆のゲームだっただろうか。
ぼくは、そう思わない。
これは、2002年ワールドカップに向けて貴重な経験だった。それも、いろいろな経験だった。
第一に世界チャンピオンであり欧州チャンピオンであるチームとの対戦は貴重だった。こんな機会は、そうそうあるものではない。日本代表の監督がフランス人のトルシエだったから実現したカードだろう。
強いチームを作るために、絶対に欠かせないのは、より強いチームとの試合経験である。タイトルマッチではないから負けてもいい。いかに戦うかが問題である。
シーズン中の遠征
貴重な経験の第二は、Jリーグのシーズン中にヨーロッパに遠征して1試合だけしたことである。ぼくの考えでは、これがもっとも画期的なことである。
国内の選手権をリーグ戦で争っていると長期にわたる海外遠征をすることは難しい。代表チーム強化のための遠征期間を長くとると、国内リーグの発展を妨げる。となると、リーグ戦中に隙間を作って代表チームの試合をするほかない。
ヨーロッパでは、国内の試合を土曜日か日曜日にして、シーズン中の国際試合は水曜日にするのが、もともとの慣例だった。しかし、これはヨーロッパ内では、国と国との距離が近いからできることである。日本からヨーロッパに出掛ける場合は、そうはいかない。
今回はシーズン中に、1週だけ隙間を作って、1試合だけのために出掛けた。これは、非常にいい試みだった。シーズン中にヨーロッパへとんぼ帰りで試合をする場合に、いい結果を期待することは難しい。チームワークを作るための合宿期間が短い。旅の疲れがある。時差がある。それに帰国後、すぐリーグの試合があることを考えるとケガをおかしての無理はできない。
というわけで、万全の準備を整えて決戦に望むわけにはいかないのだが、そういう苦しい条件で試合をするのも一つの経験である。
2002年のあとも、こういう形で国内日程の犠牲を少なくして遠征することを考えてほしい。
悪い芝生での試合
相手は世界一のチームで、しかも地元だ。こちらには遠征の不利があり。勝つことは予想しにくい。そこで僅差の勝負を期待し、できれば1ゴールをあげてほしいと思ったのが、仲間たちに話した1対0、あるいは2対1の予想である。結果は5対0の完敗。予想は大きくはずれた。
しかし、テレビで見たところでは、日本代表チームの戦いぶりは、それほど悪くない。「良かったのは中田英寿(ヒデ)だけ」というように新聞などには書いてあったが、他の選手もがんばっていた。
ヒデは、たしかに目立っていた。前半にバーにはね返るシュートがあり、後半にはゴールキーパーが、ぎりぎりではじき出したシュートがあった。中盤で相手の激しい守りに耐え、テクニックでかわし、好判断で空いたスペースに進出していた。ヒデが世界レベルで通用することを確かめたのも一つの収穫である。
他の日本選手たちは、本場の大スタジアムの大観衆に囲まれて世界一のチームと対戦するために、うわずっていた。それで十分に力を出せなかった。でも、そういうなかで何度かチャンスを作っていた。押されっぱなし、守りっぱなしではなかった。こういう試合をするのも一つの経験である。
雨上がりで芝生が悪かった。あるところでは滑り、あるところではぬかるんでいた。これは日本のほうに不利だった。立ち上がりの2失点は、あきらかにその影響である。だが、悪い芝生での試合も、また一つの経験である。
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