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サッカーマガジン 2001年2月14日号
ビバ!サッカー

オリンピックの大きな矛盾
大阪大会の計画とサッカー

 大阪市がオリンピック夏季大会の開催をめざしている。目標は7年後の2008年である。1月23日に発表された開催計画書では、サッカーの会場は東は埼玉から西は広島まで7府県にまたかっている。「これじゃワールドカップと同じだな」と思うのだが…。

会場は7府県8会場
 「会場は選手村から30分圏内」というのが、大阪のオリンピック開催計画の「売り」である。大阪湾の舞洲(まいしま)にスポーツセンターがあり、咲洲(さきしま)に会場の一部があり、夢洲(ゆめしま)に選手村がある。この3つを「オリンピック・アイランズ」と称している。いずれも湾内を埋め立てた人工島である。「会場が集中していて、選手村から競技場まで車で30分もかからない」というわけである。
 ただしサッカーは大きな例外である。大阪を含めて7府県にまたがっている。埼玉、神奈川(横浜)、愛知(豊田)、京都、大阪、兵庫(神戸)、広島である。大阪は主会場が長居で、決勝は舞洲の新設スタジアムで行なう予定だから8会場になる。
 オリンピックは一つの都市で開くのが原則である。しかし、サッカーがこの原則をはみ出すのは毎度のことで、シドニー・オリンピックのときも、日本代表チームが戦った場所はシドニーではなく、キャンベラやブリスベンやアデレードだった。だから大阪大会の試合が横浜で行なわれても、別に不思議ではない。 
 もともとの大阪市の計画では、大阪市と吹田市に神戸と京都を加え5会場の予定だった。
  ところがFIFA(国際サッカー連盟)が「お客さんをたくさん集められるように」「ワールドカップの会場と盛り上がりを利用して」と注文をつけ広域開催になったという。広域開催に反対ではないが、今度も自主性を欠いて、外圧で計画を変更したのは、情けない。

広域分散のメリット
 外圧に屈したのは情けないが、サッカーのためには3府県5会場の計画よりも、こんどの7府県8会場の案のほうがいい。
 前の計画は近畿一円だから交通の便がよいように思うだろうが、実はそうではない。大阪府下の吹田市が入っていたが、人口の集中している大阪を車で走り抜けるのは容易ではない。
 また、京都、大阪、神戸の三都をつなぐ交通は、山あいと山と海との間の細い地域を走り抜けるので、高速道路はできているものの、これもそれほど便利ではない。
 新しい案の会場は関東から広島までの間に分散していて、たいへんなようだが、選手・役員は飛行機か新幹線で移動して、その地のホテルに滞在するだろうから、かえって楽である。大阪湾の選手村から京都、神戸へ移動するとすればやっかいだが、分散しているぶんだけ移動する人数は少なくなる。
 多くのお客さんを集めるには、もちろん広域分散開催のほうがいい。
 いろいろな競技が集中して行なわれる大阪では、サッカーだけに関心が集まることはない。サッカーのオリンピック・チームは若手のメンバーだから、ワールドカップ・クラスの試合をテレビで見慣れているファンは外国同士の試合には関心を示さない可能性がある。
  各地に分散すれば、その都市で行なわれるのは、サッカーの、その試合だけだから、地元の人が盛り上げてくれるだろう。運営もサッカーだけだから楽である。

招致成功は見込み薄?
 と、いろいろ議論したところで、大阪でオリンピックが開催されると決まったわけではない。ぼくの見通しでは、大阪開催の可能性はきわめて薄い。
 2008年のオリンピック開催地は今年の7月にモスクワで開かれるIOC(国際オリンピック委員会)の総会で投票によって決まる。
 大阪のライバルは北京、パリ、トロント、イスタンブールである。東アジアから2都市が立候補しているわけだが、アジアから選ぶなら前回も立候補してシドニーに敗れた北京だろう。中国はまだ一度もオリンピックを開いたことがないから、今度こそである。
 オリンピックを地球上にあまねく広めるために、これまで開催したことのない新しい地域でというなら、トルコのイスタンブールである。主要な施設は、すでにほとんど完成しているという。
 オリンピックはもともとヨーロッパのものである。オリンピックの生みの親である、クーベルタン男爵の母国フランスのパリで、という考えもある。
 こういうように見てみると、大阪開催の目は、ほとんどない。
 実現する見込みが乏しいのに、サッカーの会場計画をここで取り上げたのは、次のことを言いたいからである。短期集中一都市開催のオリンピックにはデメリットが多い。長期分散広域開催のワールドカップのほうが、ずっといい。大阪の計画変更はそれを証明している。


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