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サッカーマガジン 2001年1月31日号
ビバ!サッカー

さわやかなゲームを守ろう
天皇杯の鹿島の2点に思う

 天皇杯は鹿島アントラーズの3年ぶり2度目の優勝だった。Jリーグ・チャンピオンシップ、ナビスコカップとあわせて2000年度3冠である。「たいしたものだ」と、その底力に感心した。しかし、元日の決勝戦の1点目と2点目には、いささか納得のいかないものがある。

小笠原の奇襲FK
 21世紀の初日、東京はすばらしい快晴だった。暖かい。国立競技場はほぼ満員。試合も後半から盛り上がり、延長1分にビスマルクの巧妙なパスから小笠原の見事なボレーシュートによるVゴールが生まれて、おおいにわいた。
 お正月の大観衆を楽しませたこの試合と鹿島の3冠の快挙に水を差したくはないのだが、しかし、鹿島の1点目と2点目については、ぜひここで取り上げて、読者の皆さんの意見も聴いてみたい。というのは、この2点のとり方は、サッカーというゲームの在り方を考えさせる重要な問題を含んでいたと思うからである。
 鹿島先制の1点目は前半41分、ゴール正面やや左寄り、25メートル以上ある距離からのフリーキックだった。清水が守りの壁を作ろうとし、ゴールキーパーの真田がゴールの右のほうに寄って壁の端を確認しているときに、いきなり小笠原がポーンと長い浮き球をけった。壁作りを確認していた真田はあっけにとられた。その間に、ボールはすとんとネットのなかに飛び込んだ。布瀬直次主審は、ちょっと間を置いてから「ゴール」の笛を吹いた。
 問題は、相手がアウトオブプレーだと思いこんでいるあいだに、意表をついてフリーキックをけったことである。清水の油断といえば油断だが、鹿島のほうも「正正堂堂」とはいえない。
 野球でいえば「隠し球」のようなトリックプレーである。新聞は「抜け目がない」という見出しで、奇襲成功を表現していた。

審判の不手ぎわ?
 小笠原の不意打ちはルール上は合法的だろう。しかし「頭脳的プレー」だと称賛する気にはなれない。
 フリーキックのとき、守備側はボールから9メートル15センチ(10ヤード)離れなければならない。これを「10ヤードオフ」という。
 しかし、相手が下がらないうちに攻撃側がフリーキックをけってはいけないわけではない。ボールを置いて、すばやくけることもある。これは、反則をした側が、守りを固める時間をかせいで有利になることを防ぐ趣旨である。
 とはいえ、10ヤードオフを守らせるのは主審の責務である。攻撃側のアピールがあって、はじめて守備側をさがらせるわけではない。
 主審は、はやくけらせたほうがいいと判断したときは、すぐけることを認める。そうでない場合は、守備側をきちんと下がらせる。 これは主審の判断である。主審はすばやく判断して、すばやく措置しなければからない。
 小笠原のフリーキックの場合、主審は、すばやくけらせるべきだと判断したのだろうか。とても、そうとは見えなかった。ちょっと間があったから、10ヤードオフを守らせるのが適当と判断したように見えた。
 小笠原の話によると、選手のほうが「笛を吹かないでくれ」と要求して主審がそれを受け入れたのだという。これは主審が「だまし討ち」に手を貸したような話である。
 鹿島の先制ゴールは、こういう主審の不手ぎわが生んだのではないだろうか?

フェアプレーを
 前半のうちに清水が同点にしたあと、鹿島の2点目は1−1で迎えた後半4分の勝ち越し点である。これは清水の市川が頭を打ってゴール前に倒れているところに攻め込んで、もぎとったゴールだった。
 市川が倒れたあと、ボールはいったん中盤に戻った。このとき、ボールをタッチラインにけり出してアウトオブプレーにし、負傷者を運び出してからスローインで再開すれば、何も問題はなかった。鹿島のボールのときけり出しても、スローインで清水が敵の鹿島にボールを戻す。こういうフェアプレーは、最近はどのチームでもやっている。
 しかし鹿島は、そうはしなかった。相手のプレーヤーがゴール前に倒れているのを承知で攻め込んだ。
 これもルール上は合法的である。しかし、このゴールは、フェアプレーの精神に反する。その点で、ぼくは鹿島を非難する。ここでは鹿島にフェアプレーを見せてほしかった。
 審判にも疑問がある。鹿島がボールをけり出さないのなら、プレーを止めてレフェリーボールで再開すべきだったのではないか。スタンドから見ていたかぎりでは、主審は「鹿島がボールをけり出してくれればいいな」という中途半端な態度のように見えた。
 こういうプレーを全国の少年たちが模範にしないようにと願っている。
 そのことを、トップレベルのプレーヤーも、審判の人たちも考えてほしい。サッカーは、さわやかなゲームであり続けてほしい。


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