日韓共催のワールドカップのあとに日本のスポーツがどうなるのか、2003年以後に何がくるのか、それを今から考えておかなければならない。企業スポーツと学校スポーツに代わって、トップレベルの選手たちの受け皿になるべき広域のスポーツクラブは成り立つのだろうか。
チェアマンの口撃
「日本のスポーツ・ジャーナリストは世界のスポーツを知らないんですよ。世界の動きを知らないで書いているから困るんですよ」
日本サッカー協会の副会長でもあるJリーグの川淵三郎チェアマンが、こういう趣旨の口頭攻撃を機関銃のようにまくしたてた。 12月からはじまったばかりのBSデジタル・テレビの朝番組である。
ぼくは、この番組に電話で出演することになっていて、スタジオと電話をつなぎっぱなしにして出番を待っていた。そうしたら川淵氏の機関銃の弾丸が受話器の向こう側から飛んできたのである。
川淵氏の攻撃は一般論で、次に登場する個人への当て付けではないだろうとは思うが、かなり見当違いである。最近の多くのスポーツ記者は、海外に出る機会が多いから世界の動きをよく知っている。ただ川淵氏とは見方や考え方が違うだけである。自分と考えが違うものを、ひとからげにして、高い立場から一方的に攻撃するのは独裁者のやり方だ。ここでレジスタンスをしておきたい。
もちろん、なかにはプロ野球や大相撲を担当していて海外に出る機会の少ない記者もいる。不勉強な記者もいる。しかし、川淵チェアマンよりも広い視野で、広く海外の事情を取材している記者もおおぜいいる。
むしろスポーツの役員や指導者のなかに、世界の動きを知らないで、あるいはかたよった知識をもって、権力をふるっている人が多いのではないか。サッカー界にもそういう人が入っているのではないか。
欧州の新事情
そのBSデジタル・テレビの番組の一つのテーマは「スポーツ・クラブ」だった。
大企業の日立が女子バレーボールの廃部を発表したように、これまで日本のトップレベルを支えていた企業スポーツは、なだれのように崩壊している。オリンピック選手を生み出していた会社が、つぎつぎにスポーツから撤退している。そのあとをどうやって埋めたらいいのか、トップレベルのスポーツの受け皿は何か。これが、これからの日本のスポーツの大きな問題である。
「欧州や南米には、大きな総合型のスポーツクラブがある」と「世界のスポーツを知っている」と称する多くの人たちが口にしてきた。
ぼくも、30年以上前から「日本でもスポーツクラブを」と書き続け、そのために動いても来た。その点ではJリーグの理念を振りかざす川淵チェアマンよりも、はるかに先輩である。過去30年間のサッカー・マガジンをめくってみれば、証拠が残っている。もちろん、それが、なかなかうまく行かなかったのを、川淵氏などがJリーグを作って突破した功績は、おおいに認めている。
しかし、現実は理念だけでは動かない。
長い間、外国に根付いていたスポーツクラブの組織を、そのまま日本の土壌に移植するのは難しい。それだけではない。欧州のクラブの地盤は、いま大きくゆさぶられている。
そういう世界の新しい事情を知ったうえで、日本のスポーツをどうするかを考えなければならない。
自主運営の基盤を
欧州のスポーツクラブの基盤が揺れ動いている大きな理由は二つある。
一つは莫大なテレビの放映権料がサッカーに流れこんできたことである。それが有名クラブをうるおしている。これはテレビの多チャンネル化の結果である。もう一つは、ECの統合である。ヨーロッパの国境が消え、選手の移動が自由になってきた。それがスーパースターの報酬の高騰につながっている。
この二つの現象は、大都市の有名クラブを肥大させる一方で地方のクラブの経営を困難にしている。
多チャンネル化は日本にも及んできた。無国境化はサッカー選手の海外への移籍となって日本にも及んでいる。
そういうなかで、日本国内でトップレベルの選手の受け皿になるクラブを作り出す道を求めなければならない。都府県や大都市を単位にする比較的広域のクラブが運営できるような条件を探さなければならない。
広島では「トップス広島」の活動がはじまっている。サッカーのサンフレッチェをはじめ、バレーボールのJT、ハンドボール男子の湧永製薬と女子のイズミ、バスケットボールの広島銀行が連携しようという企画である。
新潟ではJ2のアルビレックス新潟が、男子バスケットボールのチームとともに活動している。
こういう地域のクラブの試みが自主的に運営できるような財政基盤を作れるかどうか。これが2003年以後のための最大の課題だろう。
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