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サッカーマガジン 2000年12月27日号
ビバ!サッカー

地域クラブの鳴動が聞こえる(中)
小学校区の総合スポーツクラブ

 企業スポーツの崩壊がなだれのように続いているが、そのあとに何かくるかは、まだもやのなかである。そういうときに小学校区に総合型スポーツクラブ設立が全国で展開されている。行政主導のこの動きが、Jリーグが火をつけた地域のクラブづくりにつながるかどうか。

文部省主導で
 女子バレーボールの日立の廃部に象徴されるように、企業スポーツの崩壊が続いている。いわば日本のスポーツのピラミッドの頂点の組織が崩れつつあるようなものである。
 一方、ピラミッドの底辺のほうでも地盤変動が起きている。それは小学校区ごとに総合型スポーツクラブを作っていこうという動きである。
 ぼくの住んでいる兵庫県の加古川市では、ある小学校区にスポーツクラブが誕生して県から900万円の補助金が出た。800万円は設備費で100万円は運営補助である。運営費は来年度からも4年間、毎年100万円ずつ補助される。5年間で合計1300万円の補助が出るわけである。
 誤解がないように念を押すと、これは「小学校のクラブ」ではない。小学校が一つある「地域」のクラブである。施設は小学校の体育館や教室を使う場合が多いだろう。子どもの数が減ってきて空き教室などが出てきているからである。しかし、クラブのメンバーは小学生だけではなく地域の若者や大人である。「総合型」というのは、複数のスポーツを含んでぃるという意味である。卓球もバドミントンも、という趣旨である。
 この動きは、文部省の保健体育審議会が文部大臣に提出する「スポーツ振興基本計画について」という答申の内容に基づいている。そのなかに「2010年までに全国の各市区町村において、少なくとも一つは総合型地域スポーツクラブを育成すること」と書いてある。そういう点では、この動きは行政主導型である。

スポーツくじを視野に
 総合型スポーツクラブ展開の計画は、これからスタートするスポーツくじを視野に入れている。これは憶測ではない。答申の中間報告のなかに「本計画に掲げる国の施策の推進に必要な資金の充実に努めるとともに、国の予算、スポーツ振興基金、スポーツ振興投票制度による収益という多様な財源の…」と書いてある。スポーツ振興投票制度というのは、Jリーグの試合を対象とした「toto」のことである。
 ところで、この狭い地域での総合型スポーツクラブの展開が順調に進んだ場合、サッカーとはどういうかかわりが出てくるだろうか。
 実は、この点に関しては、いろいろな問題がある。
 子どもたちのためのサッカーを入れたいというニーズはあるのだが、これが難しい。
 ぼくの知っている範囲では、実際に取り上げられている競技は、卓球やバドミントンやママさんバレーである。というのは、小学校の体育館を夜間に使用するので屋内のスポーツが好都合だからである。
 サッカーを仲間に入れてもらうには、比較的広い校庭を持つ小学校か中学校にナイター設備を付けてもらうのが第一段階である。ナイター設備があれば、学校の放課後の夜間にサッカーやソフトボールやラグビーをすることができる。
 ナイター設備をすると電気代や補修費などのメンテナンスの費用が問題になる。これは補助金に頼るのではなく、利用する側でなんとかする努力をしなければならない。

指導者の派遣を
 屋外スポーツの設備を、すべての小中学校のグラウンドにする必要はない。3つに一つくらいでいい。なぜなら一つの小学校区のクラブであらゆるスポーツをするわけではないからである。あるクラブには卓球があってもバドミントンはないとする。そんなときは、バドミントンをやっている隣の小学校区のクラブに行けばいい。加古川市では、いま6地区でクラブを立ち上げているが、一つの地区で会員になって会費を払っていれば他の地区のクラブも利用できるようになっている。
 また、ナイター照明つきの校庭を毎日、サッカーが利用することもない。月曜日はサッカー、火曜日はラグビー、水曜日はソフトボールでいい。このクラブは、トップレベルの選手のためのものではなく、多くの人びとのための場だからである。
 さて、もう一つの問題は指導者である。
 各クラブには、少なくとも一人は専任の要員がほしい。これは競技のコーチではない。いろいろなスポーツを知っているマネージング・ディレクターのような人である。一つのクラブでいろいろなスポーツをやるのだから、クラブの専従者がすべての競技の専門的なコーチをするのは無理である。競技別指導者は競技団体が提供する必要がある。
 そこで各地のサッカー協会に提案したい。
 第一にナイター設備をしてもらうための運動を起こすこと、第二にボランティアでいいから指導者を派遣できる体制を作ること、である。


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