21世紀へ向けて、日本のスポーツの地盤に2種類のマグマが動きだしている。一つは企業スポーツの崩壊のあとを埋める広域の地域クラブへの動き、もうーつは行政主導で動いている小学校区での総合型スポーツクラブ設立である。まず企業スポーツの崩壊から取り上げてみよう。
日立バレーの廃部
20世紀のどんづまりに、日本の企業スポーツの崩壊がなだれのように続いている。
一つは女子バレーボールの日立の廃部である。11月25日に突然、会社から撤退通告を受けた。日立の女子バレーは、東京オリンピックの年の1964年に日立武蔵として創部、日本のトップをリードしてオリンピック・チームの中核となっていた。企業チームの盛衰は珍しいことではないが、日立のような大企業が輝かしい歴史を誇る女子バレーボールを見離すとあっては「いよいよ企業スポーツも本当に終わりだ」と思う。日立は選手たちをチームごと、他の企業に引き取ってもらうことを考えているという。
企業スポーツの崩壊を告げるできごとが、もう一つ、11月27日に伝えられた。これもスポーツでは名門の新日鉄がバレーボールや野球などの運動部を手放すというニュースである。
新日鉄のほうは、完全にやめるのではなく子会社にする。将来は地元企業などと共同経営にする。堺市にある男子バレーボールは「堺ブレイザーズ」と名称も変える。「地域で支えてもらいたい」と広報の人の談話が新聞に出ていた。
企業を母体に地域のクラブにするというのは、Jリーグの柏レイソルや浦和レッズに似ている。柏は日立が母体であり、浦和は三菱が母体である。その点は似ているが、新日鉄のほうは、選手は社員としての身分を残すらしい。企業のしっぽを、まだ引きずっている。
アイスホッケーの場合
企業スポーツの崩壊は、時代の流れで押し止めることはできないと思う。日本の経済そのものがグローバル化の波に呑み込まれて、沈没しかけているときに、日本のスポーツ独特の企業護送船団を維持することは不可能である。
そこで問題は、崩壊する企業スポーツの受け皿があるのかということになる。日立のバレーボールのように別の企業に救済を求めても、あるいは新日鉄のように企業のからを背負ったまま地域クラブをめざしても、一時しのぎの救命ボートにすぎないかもしれない。乗り換えるべき大きな船が現れるかどうかは、分からない。
ここに一つの前例がある。アイスホッケーの日光アイスバックスの活動停止である。日光アイスバックスは、もともと古河電工のアイスホッケー・チームを引き継いだものである。古河電工が撤退したあと、地元の支援を得て「栃木アイスホッケークラブ」という会社を設立し、市民クラブとして再出発した。
最初の年は前身の古河電工が資金援助したが、それが打ち切られた今季は年間約3億円の運営費を調達できずに火の車となった。その結果、ついに11月29日に「今季かぎりで活動停止」を決めた。地域密着型の市民クラブをめざしたが、成功しなかったわけである。
アイスホッケー日本リーグは6チームで運営されているが、さきに雪印乳業が廃部を決めているので、リーグの存続さえ危うくなっている。
横浜FCの試み
企業スポーツ崩壊のあとの受け皿として、もう一つの試みがある。それはサッカーの横浜FCである。
横浜FCは、Jリーグの横浜フリューゲルスが、スポンサーの全日空と佐藤工業の撤退でつぶれたあと、フリューゲルスのサポーターが結成した「市民クラブ」である。
企業に頼らない市民クラブとして横浜FCは新しい試みをした。欧州や南米のような会員制のクラブをめざしたのである。
スペインのまねをして「ソシオ」と呼ぶ会員を集めた。個人会員と法人会員があり、個人の年会費は3万円である。
それで、なんとか運営してJFLで2年連続優勝したのだが、J2昇格を目前にして、この10月〜11月に会社内でも会員(ソシオ)のなかでも内紛があったらしい。多くの個人を集めて運営しようとすれば、意見の違いが続出するのは当然である。
結局、ゼネラル・マネジャーの奥寺康彦氏を中心に、運営会社の株を再配分することで決着した。
個人会員(ソシオ)が「持ち株会」を作って全株式の3分の1以上を持つ。その他の株は、法人会員だった地元企業8社が引き受ける。個人あるいは1企業がクラブを支配することは認めない。
この方式がうまく機能するかどうかは分からない。多数の「ソシオ」による意思決定がスムーズに行なわれるかどうかが一つのカギであり、財政収支がつぐなうかどうかが、もう一つのカギだろう。しかし、これは注目すべき新しい試みだと思う。
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