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サッカーマガジン 2000年11月22日号
ビバ!サッカー

アジアカップ優勝を評価する!
2002年へ大きなステップだ

 レバノンで開かれたアジアカップで、ついに日本が優勝した。すばらしい。トルシエ監督のチームづくりがよかった。選手たちの精神力も見事だった。2002年への道は、もっとけわしいだろうが、アジアで優勝したのはワールドカップへの大きなステップである。

トルシエの成功
 ほんとに、はらはらした。胸が締め付けられるような思いで、レバノンのアジアカップの準決勝と決勝戦のテレビ中継を見ていた。
 グループリーグで日本が大量点をあげて勝っているとき、ぼくは決勝トーナメントを甘く見るなと警告した。アジアのレベルが下がっているという新聞の報道に対して、それは違うんじゃないかと反論した。
 準決勝で中国が力を見せ、サウジアラビアが決勝に進出して日本を苦しめた。「ぼくが書いたとおりだろう」と言いたいところである。
 しかし、それをはねかえして日本は優勝した。すばらしい。アジアカップ優勝は1992年の広島大会についで2度目だが、今回はアウェーの不利を克服しただけに、いっそうの価値がある。
 これはトルシエの成功である。
 結果が出たいまになっては、この年の前半に「トルシエおろし」を画策した人たちの、あの騒ぎは何だったのか、という思いがする。
 この2年間にトルシエが何をしたか、何を残したかは、改めて詳細に検討する必要があるだろうが、とりあえず、簡潔に要約しておこう。
 第一にトルシエは、いろいろな攻守のパターンの練習を繰り返した。これは、基本的な形をかためながらも、フィールドでの選手の選択(オプション)の幅を広げるためのものだった。
 第二にトルシエは、選手たちが個性を発揮することを求めた。フィールドでのオプションは選手が自分でやらなければならないからである。

選手たちのスピリット
 グループリーグでの大量点は、攻めのパターンがものをいったものだと思う。相手のマークが厳しくなければ、練習してきたような攻めを存分に試みることができる。相手が「グループリーグはほどほどに」と考えてやってくれば、ゴールラッシュになっても不思議はない。
 一発勝負の決勝トーナメントになったら、そうはいかない。守りが武器のチームは、ここでは厳しくマークしてプレスをかけてくる。そうなると、そうそう思い通りにパスは回らない。連戦の疲れもあってミスも出やすい。そこをつかれると危ない場面が続出する。準決勝、決勝は、まさにそのような試合になった。
 ベイルートで行なわれた10月26日の準決勝は、中国と点の取り合いになり、逆転、再逆転のすえ、日本が3対2で勝った。
 10月29日の決勝戦は、日本が前半29分にフリーキックのチャンスを生かして先制したが、後半はサウジアラビアの反撃に守りに追われて苦しい試合をした。
 こういう試合になると、ものをいうのはスピリットである。リードされてもめげない、ミスをしてもあきらめない、最後まで粘り強く守る。そういう気持ちが相手よりまさっていないと勝ち抜けない。この点で、日本の選手たちはタフだった。
 もちろん、それを技術や戦術能力が高いレベルにあっての話である。
 幸運も必要である。決勝戦の前半10分のPKをサウジアラビアがはずしたのには本当に助けられた。

日本の選手への三賞
 大会の最優秀選手は名波だった。全部の試合にフル出場して、攻守に主軸だった。中田英寿を呼び戻せなかった穴を完全にカバーした。イタリアでの経験が、プレーも気持ちもひとまわり大きくしたようだ。
 最優秀ディフェンダーには、森岡が選ばれた。
 大会当局は他のチームも対象にして選考しているから、日本からばかり選ぶわけにはいかない。そこで、例によってビバ!サッカーの独断と偏見でテレビ観戦による日本チームの三賞を選考しよう。
 殊勲賞は森島に出すことにしよう。全試合を通じて、よく走り、よくカバーした。労働量が多いだけでなく、その判断力が適切だった。
 敢闘賞はゴールキーパーの川口だ。決勝戦で危ないシュートを何度も防いだ。かつて新聞記者としてプロ野球を取材していたとき、内野手の守りについて「球(たま)ぎわの強さ」ということばを聞いたことがある。川口の守りは「球ぎわ」に強かった。ぎりぎりのところで相手のシュートをはじきとばした。
 技能賞は中村俊輔だ。相手の厳しい守りを攻め崩せないときにフリーキックを生かすことが絶対に必要である。日本はそのための切り札をもっていて、それをみごとに活用した。
 こうやって数え上げると、どの選手にも賞を出したくなる。でも本当の賞は「アジア・チャンピオン」であって、ビバ!サッカーが表彰しても栄光がいや増すわけではない。この表彰は、贈るほうが喜びを確かめるためのものである。


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