レバノンのアジアカップ2000で、日本、中国、韓国の東アジア勢が4強のうちの三つを占めた。準決勝の日本対中国は、逆転、再逆転のすばらしい試合だった。果たして東アジアのサッカーのレベルが急上昇したのか? それとも他の地域のレベルが下がっているのか?
アジアの勢力地図
地図を広げてみると正確には東北アジア三国というべきかもしれない。日本、中国、韓国のことである。レバノンで開かれたアジアカップで、ベスト4のなかに3チームとも進出した。
アジアは広い。東の端の日本と西の端のレバノンとの間には時差が7時間もある。レバノンの経度は西ヨーロッパと変わらない。この広大な地域をおおまかに五つに分けて考えている。
黄海を囲む地域が東アジアである。日中韓のほか、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が入る。サッカーでは組織力と粘り強さが一つの特徴だろう。
その南の方、タイ、インドネシア、マレーシアなどは東南アジアだ。このあたりは柔軟な個人の足技が特徴だが体力的にハンディがある。
インド、バングラデシュ、スリランカなどのグループを南アジアと呼んでいる。サッカーは、クリケットとともに人気のあるスポーツだが、どういうわけかレベルはなかなか上がらない。
サウジアラビア、クウェートなどのアラブとイラン、イラクなどの中近東のイスラム圏が湾岸諸国としてまとまっている。体力にめぐまれて力強く、テクニックもいい。この20年くらいアジアのトップレベルだった。
その北の方、ウズベキスタン、カザフスタンなどが中央アジアである旧ソ連邦に属していた5カ国が、ソ連邦崩壊後にアジアのグループに入ってきた。
アラブは衰えたか?
2000年のアジアカップは、中近東のアラブ圏から、東アジア勢がリーダーシップを奪い返すという結果になった。
これについて「東アジアのレベルが上がったわけではない。他の地域のレベルが下がっているんだ」という見方が新聞に出ていた。
これは正しくもあるし、間違いでもある。
テレビの国際中継が普及して、ヨーロッパのトップレベルのサッカーをブラウン管で見慣れているので、それにくらべてレバノンからの映像はレベルが低いように見える。確かにそうだけれど、4年前、8年前にくらべれば、全体のレベルはむしろやや上がっているのでないか。
それに、たとえば4年前とくらべるときにイメージしているのは、主として優勝チームである。これは、そのときもっとも調子のよかったチームである。これを、多くのチームがまだ調子を出していないグループリーグの段階で比較の対象にするのは適当ではない。
というわけで、テレビ観戦の印象では、アラブ諸国やイラン、イラクなどの中近東のレベルが、とくに落ちているとは思えない。個人的には非常にすぐれた能力の選手がいる。若い素材もいる。ヨーロッパの一流チームで高いレベルにもまれる経験をしている選手もいる。
東アジア勢の進出が目立ったのはやはり日本や中国が、よくなって来たからではないだろうか。もともとの特徴だった組織力が、ひと皮むけてよくなってきている。
準々決勝の戦い
日本はグループリーグで連勝。あまり楽に大量点をあげたので、決勝トーナメントの厳しい戦いで逆に苦しむのではないかと心配になったのだが、10月24日にベイルートで行なわれた準々決勝では立ち上がりの失点をはねかえしてイラクに4−1で快勝。「日本の攻撃力は本物だった」とひと安心した。
その前、10月20日のグループリーグ最終戦では、カタールと1−1で引き分けた。決勝トーナメント進出が決まっていたので、最初の2試合の主力を休ませ、他の選手に経験を積ませることができたのがよかった。この試合も1点リードされ、後半に反撃して同点にしたが。トルシエ監督の得意のせりふで言えば「リードされるというシナリオを練習できてよかった」ということになる。
準々決勝では、前半4分にイラクにリードされたあと、すぐ4分後に同点できたのがよかった。フリーキックからのセットプレーで「練習していたとおり」という感じだった。
63分に明神のミドルシュートで4点目が入ったのもよかった。これでトルシエ監督は安心して交代のカードを切り、3人を休ませ、3人に経験を積ませることができた。
中国は、日本が引き分けたカタールに3−1で勝った。ミルチノビッチ監督が手腕を見せている。
準決勝の日本対中国は、後半にはいって逆転、再逆転の激戦だった。3−2で日本が決勝に進出したが、中国のきびしい守りも、逆襲速攻もなかなかだった。東アジアは確実に伸びてきている。 |