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サッカーマガジン 2000年10月11日号
ビバ!サッカー

幸運も実力のうち!
ベスト8進出は順当な結果だった!

 オリンピックの日本代表は1次リーグの第3戦でブラジルに敗れはしたが、決勝トーナメント進出を果たした。まずは当面の目標をクリアしたといっていい。結果もさることながら、どのチームとも互角以上に渡り合った内容が、トルシエ監督による日本の進歩を明白に示していた。

ブラジルに敗れたが
 ハーフタイムに他会場の経過がアナウンスされた。「スロバキア・ニル、サウスアフリカ・ニル」。「ニルってゼロのことですよね」と隣の席に座っている仲間がきく。分かっているけど不安なのである。
 日本のオリンピック・チームの1次リーグ第3戦、9月20日、ブリスベンのスタジアムでは日本が1対0とブラジルにリードされていた。 
 このまま試合が終わって南アフリカがスロバキアに勝つと日本の望みは消える。しかし南アフリカが引き分けか負けだと日本は敗れても準々決勝に進出できる。 
 スロバキアと南アフリカがハーフタイムで0対0だということは、日本のチャンスは十分ということだ。 
 「これはいける」と直感した。
 ブラジルも南アフリカも、後半には動きがにぶるタイプである。つまり日本が後半にブラジルに追い付くか逆転する可能性は十分に考えられる。一方、南アフリカが後半にスロバキアをとらえる可能性は少ない。合わせて考えれば、日本の準々決勝進出の可能性は、かなり大きいということである。 
 後半にはいって間もなく、近くの席に座っていた人が「スロバキアが1点とりました」と教えてくれた。ラジオをきいていて分かったのだという。団体の応援ツアーで来ているので、まわりはみな日本人、しかもみな旅慣れたサッカー通である。たちまち情報が伝わった。 
 しかも、後半にはいって日本がペースを取り戻していた。前半はブラジルのすばやい攻めと巧みな守りに押され気味だったのだが、後半は思ったとおり、ブラジルの動きが、ややにぶって、日本がボールを支配する時間帯が長くなった。 
 35分過ぎに「スロバキアが2対1でリードしています」という情報が入る。さらに4分のロスタイムの表示が出たあと「スロバキアが勝った」とラジオのニュースが応援席に口コミで伝わってきた。
 こういう情報は、日本のベンチにも刻々に伝わっていたに違いない。日本対ブラジルの試合は、後半は0対0で日本の負けで終わったが、試合終了と同時に出場停止だった中田ヒデや森岡がフィールドに飛び出して選手たちに、この情報を伝えていた。だから日本には、ブラジルに負けたショックは感じられなかった。

ふくらんだ自信と経験
 9月17日にキャンベラで行なわれた第2戦で日本は、スロバキアに2対1で勝った。初戦の対南アフリカにつづいて2連勝である。順当なら、これで決勝トーナメント進出が決まって、ブラジルの試合は、いわゆる「お花見試合」になるはずだったが、ブリスベンで行なわれていた試合で優勝候補のブラジルが南アフリカに敗れる番狂わせが起きて、Dグループから進出するチームの決定は1次リーグの最終戦に持ち越された。
 「南アフリカとブラジルの試合の結果を聞いたときは、ちょっと失望したが驚きはなかった。南アフリカは、ブラジルに勝って不思議はない強いチームだ。われわれはブラジルとの試合で、1試合ごとに強くなってきていることを示すことができるだろう」というのが、試合後のトルシエ監督の談話である。
 「トルシエは、選手たちには、こういうに違いないよ」と、ぼくは応援ツアーの仲間たちに話した。
 「ブラジルだからって、おそれることはない。われわれの力は伸びている。いまやブラジルとは互角だ。勝つ可能性は十分だとね」
 「だけど、日本サッカー協会の幹部に対しては、こういうかもしれない。ブラジルのような強い相手と真剣勝負をする機会を得たのは、非常に貴重だ。かりに敗れても、若い選手たちは2002年に向けて、得難い経験を積むことができるとね」
 そのとおりだった。選手たちは自信をふくらませ、貴重な経験を得た。そして何も失わなかった。

実力は紙一重だ
 4年前のアトランタ・オリンピックでは、日本はブラジルから「奇跡の1勝」をあげながら1次リーグで敗退した。今回はブラジルには敗れたのに準々決勝に進出した。前回は不運で、今回は幸運だったといえるかもしれない。しかし、試合内容はそうではない。前回のブラジルからの1勝は、押されっぱなしの試合を守りに守っての逆襲一発だった。実力は明らかにブラジルが格上で、日本の勝利は幸運だった。
 今回は、立ち上がり5分にブラジルに先制点を許して苦しい立場に立ったが、前半はよく持ちこたえ、後半に反撃に出て互角以上に戦った。実力は紙一重で日本が敗れたのは不運だという気がした。しかも、この試合では、攻めの起点である中田ヒデと守りの中心の森岡が、警告2枚で出場停止となっていた。それでも強豪ブラジルと互角に戦える。トルシエによる日本のサッカーの進歩は明らかである。
 第2戦のスロバキアとの試合では日本が七分どおりボールを支配していた。個人的なパワーでは、スロバキアが数段上だが、日本はテクニックとインテリジェンスで上回り、組織力で対抗した。
 オリンピックに出場している各国の実力は、ほとんど同じである。足技に特徴のあるチームもあれば、スピードの鋭いチームもある。それぞれ個性が違い、対戦カードによって「相性のよしあし」がでてくるけれども、日本の組織力は、そのなかでもトップクラスである。


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