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サッカーマガジン 2000年9月6日号
ビバ!サッカー

少年サッカーとクラブの組織
塩竈FCの試みに注目する(下)

 クラブづくりには三つのボイントがある。人と場所と組織である。多くの場合は熱心に世話をする指導者がいてスタートするのだが、グラウンド難でまず行き詰まる。ユニークな試みを続けている宮城県の塩竈FCは、この問題にどう挑戦しているのだろうか。

官設民営のモデル
 「ハードは公共、ソフトは民間ですよ」。塩竈FCの小幡忠義理事長は、こう話してくれた。
 たいていのサッカー・チームで、最大の悩みの種はグラウンドの確保である。町の民間のクラブが、練習と試合の場所をどうやって調達したらいいだろうか。
 グラウンドがないわけではない。
 日本では、多くの学校や企業がそれぞれグラウンドを持っているし、市営や県営の競技場もいたるところにある。ただ、町の無名のクラブには、なかなか貸してくれないのが実情である。
 人口10万の町で市民のサッカークラブを目指している塩竈FCは、ユニークな方法を考えた。
 いま、塩竈市から市有の二又スポーツ広場の少年サッカー場とソフトボール場の管理を委託されている。つまりハード(施設)は公共のもので、ソフト(運営)を民間組織である塩竈FCが引き受ける。
 少年サッカー場は天然芝である。定期的に芝の手入れをし、水まきもしなければならない。しかし、自分たちで責任をもって、有効に使うことができる。
 日本では土地の値段が、まだまだ高い。新しく土地を購入してクラブの施設を作るのは夢物語である。しかし、市や町の持っている土地や施設を提供してもらい、その管理を引き受けるのなら、ボランティアで労力を提供すれば可能である。
 「官設民営」のモデルケースだ、と塩竃では自慢していた。

地方自治がいい
 公共の施設は、もともと市民に利用してもらうためのものである。しかし、これがなかなか難しい。
 「税金で作った施設だから市民に公平に」という建前がある。そこで、たとえば、申し込み者多数の場合は抽選でということになる。ウイークデーは申し込みが少ないから当たりやすいといっても、一定の曜日と時間に継続的に使えることが、あらかじめ分かっていないとクラブとしては利用できない。クラブの活動は定期的で継続的なものだからである。
  そういうことを考えると、塩竈市が特定の民間団体に管理運営を委託したのは大英断である。「全市民公平に」という建前から一見ずれているようにみえるが、定期的継続的に利用する団体に管理させるのが、もっとも効率がよく、実質的には公平である。
 とはいえ、お役所の側からすると委託する団体を信用できることが確実でなければならない。
 塩竈くらいの地方の中都市では、市役所から町全体がだいたい見えでいるだろう。小幡理事長がどんな人物で、どういう仕事をしてきたかぐらいは、もちろんよく知っている。だから信用することができる。
 これが大都市や都道府県単位になると、そうはいかない。一つひとつの民間団体の動向を掌握することは無理である。まして全国一律に「こういうふうにクラブを作れ」と号令しても現実には合わない。
 というわけで、スポーツ振興の仕事は「中央集権」ではなく「地方自治」がいい。

社団法人組織
 塩竈市が小幡理事長個人、あるいは塩竈FCの実績を信用しているといっても、これが目に見える形になっていないと具合が悪い。市民のなかには、あるいは市議会のなかには反対派もいるだろう。その人たちにも説明できなくてならない。
 市のなかだけでなく、県に対しても、あるいは文部省など国に対しても、信用できる根拠を説明できなければならない。地方自治はいいのだが、地方独断と思われては困る。
 そこで塩竈FCは、数年前に「社団法人」として認可を得た。社団法人は法律で決められた公益法人の一種である。営利事業はできないが、一つの責任ある団体として認められ 法律で法人として認められていない団体は任意団体という。塩竈FCが任意団体だと、なにかあったときの責任は代表者である小幡理事長個人が負うことになる。法人であれば組織全体で責任を負うことになる。つまり個人よりも法人のほうが信用度が高くなる。
 社団法人に衣替えして、社会的に見栄えはよくなったが、官庁に監督される立場なので面倒もある。「手続きがわずらわしくてね。経理は会計士にお金を払って見てもらわなければならないし、専任の職員がいなくてはやっていけない」
 もう少し簡便なNPOという組織もあるが、いまのところ税法上の利点がない。
 まだまだ難しい問題が多いけれども、塩竈FCは、あえて困難な試みに挑戦しつつある。


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