日韓共催の2002年ワ―ルドカップのテレビ放映権についての交渉が大詰めに近づいたようだ。主要な試合は地上波で多くの人たちが見ることができるようにし、全部の試合を有料の衛星波で中継することになるらしい。現状では、これが順当な結論だと思う。
総合か、専門か
今回は、前回の続きである。前回は欧州選手権の中継を衛星波のWOWOWが独占したために、見ることのできなかった人たちが大勢でたことを取り上げた。これは衛星波が日本ではまだ十分に普及していないために起きたことで「ユニバーサル・アクセス」の問題である。多くの人が関心を持っているイベントは、だれでも手軽に見られるチャンネルで放映すべきだという考えである。
サッカーの欧州選手権が、ユニバーサル・アクセスに値するかどうかは異論もあるだろう。熱心なサッカーファンだけの関心事だから衛星波でもいい。見たい人はWOWOWと契約したらいいという議論も十分に成り立つ。地上波の公共放送のNHKは、多くの日本人が興味をもっている大相撲などを中継すべきだ、という考えにも筋は通っている。
しかし、サッカーを普及させる立場からいえば、あんな素晴らしい試合を、専門チャンネルでマニアだけが楽しむのはもったいない。地上波で放映すれば、多くの人にサッカーの面白さを知ってもらえたはずだという気にもなる。スポーツ団体がテレビ放映権を売るときには、金額だけでなく、スポーツ振興の効果も視野に入れなければならない。
有料の専門チャンネルに放映権を独占させれば多額の放映権料収入が入る。それでサッカー界の運営資金が豊かになるのはいい。しかし、サッカーの面白さを人々に広く知らせる機会は失われる。普及のためには、多くの人が簡単に見られる総合チャンネルがいい。
CSは全部やる?
7月11日付けの朝日新聞によると、2002年のワールドカップの日本でのテレビ中継は、次のようになるらしい。
CSデジタル衛星放送のスカイパーフェクTVが全試合の放映権を得る。地上波のNHKと民放5社の連合体が、日本の出場する試合と準決勝、決勝を中継する。つまり衛星波と地上波、専門チャンネルと総合チャンネルが共存して放映するわけである。
そういうことになるんじゃないかという見通しは、前にこのビバ!サッカーでも書いたことがある。
2002年のワールドカップのテレビ放映権はFIFA(国際サッカー連盟)が、ドイツとスイスのスポーツ・テレビ企業の連合体エージェントに、3億スイス・フランで売り渡している。1996年である。当時の為替レートで1200億円くらいだった、と思う。
権利を買ったエージェントは、これを世界各国のテレビ会社に売らなければならない。しかし、そんなベラボーな金額では元もとれないよ、というのが当時の業界の常識だった。無料の地上波のテレビ局では、世界中あわせても、そんなに巨額のお金は出せない。ところが、エージェントが目ろんでいたのは、有料のペイ・パー・ビューで投資を回収することだった。これは番組を一つ見るたびに、視聴者が料金を払う仕組みである。見たい人だけが、見たい番組に、お金を払うのだから、これは電波の入場料である。
ペイ・パー・ビュー
見たい人だけが、お金を払って見ることになると、熱心なサッカーファンだけが、ワールドカップを見ることになる。サッカーは世界中に多くのファンがいるから、商売としては成り立つだろう。
しかし、ペイ・パー・ビューのテレビが普及していない国はたくさんあるし、有料放送にお金を払えない貧しい人たちも世界には多い。見たいけど見られない人が世界中にたくさん出てくると、サッカーを普及させるというワールドカップの大きな目的が達成できない。
というわけで、FIFAはワールドカップの放映権を売り渡すにあたって条件をつけた。
それは、開幕試合、準決勝、決勝は誰でも見ることのできるチャンネルで無料で放映することである。自分の国の出る試合は、有料でもいいが、その場合はFIFAの了解が必要だということになっている。
日本でのテレビ中継をCS衛星波のスカイパーフェクが全部やる。ただし日本の出る試合と開幕試合、準決勝、決勝はNHKと無料の民放地上波でも放映する――ということになると、おおよそ、FIFAのガイドラインに沿った解決になる。
CSで見る試合は有料になる。これは電波の入場料を払うようなものだから、そんなに不当とは言えない。ただし、日本でも、まだCS衛星放送のアンテナ、チューナーを持っていない人が多いから、そういう人はこの機会に買わなければならない。
そこがちょっとつらいところだがまあ妥当な解決策ではないか。
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