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サッカーマガジン 2000年7月26日号
ビバ!サッカー

EUROはなぜWOWOWか
ユニバーサル・アクセスとは?

 欧州選手権はフランスの優勝で終わった。接戦続きで、技術的、戦術的にも見どころが多かったようだ。日本ではWOWOWが全面的にテレビ中継をしたが、あらかじめ加入していなければならない衛星波のチャンネルだったので「見られない」と不満を持った人も多い。

有料の衛星波
 「サッカー欧州選手権はテレビでやらなかったんだね」
 勤め先の同僚の経済学の先生に、こういわれた。フランスが優勝を決めた翌日である。この先生は、いろいろなことに知的好奇心を燃やすけれども、とくにサッカーが好きというわけではない。
 欧州選手権の記事が新聞に連日はなやかに載り、なかなか、おもしろそうなので「決勝戦ぐらいは見ようか」とテレビ欄をみたけど見当たらない。それで「?」と思ったらしい。
 欧州選手権の日本でのテレビ放映権はWOWOWの独占だった。決勝戦は3日午前2時30分から中継した。深夜だったが熱心なサッカーファンは見ただろう。
 新聞のテレビ欄にも「衛星放送」のところに載っていたのだが、わが同僚の経済学の先生は「これだけ、新聞で大きく取り上げられるイベントだから当然、NHKあたりがやるだろう」と思い込んでいたようだ。それで「衛星放送」の番組表は見落としたわけである。
 かりにテレビ欄で見付けたとしても、WOWOWは衛星波の有料放送だから、あらかじめ加入契約をしていなければ見ることはできない。テレビ欄を眺めて「おや、これはおもしろそうだ」と思ってチャンネルをまわしても、ぎざぎざのシマ模様みたいなものが映るだけである。
 わが経済学の先生は、欧州選手権のために、わざわざWOWOWと契約するほどのサッカーファンではない。「地上波のチャンネルで映画でも見るか」ということになる。

放送権シンポ
 同じような話が、その2日前、7月1日に東京で開かれたシンポジウムでも出た。民間放送の労働組合出身者が中心になっている「メディア総合研究所」の主催だった。「放送権と見る権利」というタイトルで、「2002年サッカーW杯をめぐって」とサブタイトルが付いていた。
 このシンポジウムで聴衆から質問が出た。
 「サッカーの欧州選手権をNHKが中継しないのはなぜか? だれでも見ることのできる無料の地上波でやるべきではないか」
 一般の視聴者の立ち場から見ればもっともな質問である。基調講演をした元NHKスポーツ報道センター長の杉山茂さんが答えた。
 「NHKも地上波の民放各局も先見の明がなかったというほかはありませんな。WOWOWの先見の明に敬意を表します」
 杉山さんは、ぼくの長年の友人である。NHKの現場を離れたものだから歯切れがいい。
 EURO2000の放映権交渉が日本に待ち込まれたころは、サッカーがこれほどの人気スポーツになるとは思っていなかった。高い放映権料を払っても、それに見合う視聴率はとれそうになかった。それで地上波の各局は手を出さなかった。
 WOWOWは、サッカー人気の広がりを見越してEURO2000の放映権を買った。それが先見の明である。
 多チャンネル化で番組(ソフト)が不足することも見越していた。

視聴する権利
 「多くの人が関心を持っているスポーツ・イベントは無料の地上波で放映すべきだ」という考えがある。シンポジウムで質問した人も、そのような考えだったのだろう。
 これには、いろいろな問題がある。
 一つの問題は「NHKは無料でない」ことである。受信料を徴収しているのだから、視聴者の立場から見れば、視聴料を払うWOWOWと同じである。
 NHKは公共性の高い組織だから多くの国民にとって、大切な番組は放送してもらいたい。しかし、多くの人が見たがる番組は商業放送でも成り立つのだから、NHKが無理に参入する必要はない。
 このシンポジウムのテーマは「ユニバーサル・アクセス」だった。これは「だれでも見ることができる」ということである。
 パネリストとして参加していた隅井孝雄さんが次のように述べた。
 「これは有料か無料かではないでしょう。そのチャンネルが、どれだけ普及しているかでしょう」
 隅井さんは元日本テレビで、10年ほど前、ぼくが読売新聞に勤めていたとき、ともにニューヨーク駐在でお世話になったことがある。現在は京都学園大学教授である。
 経歴が似ているせいか、ぼくは隅井さんと、まったく同意見だ。
 問題はEURO2000が、それほどの国民的関心事であるかどうか、衛星波のWOWOWの普及度が、どの程度かということになる。
 ところで、2002年のワールドカップは、どうなのだろうか?


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