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サッカーマガジン 2000年7月19日号
ビバ!サッカー

トルシエ監督との再契約問題
協会の内部抗争の具にするな

 トルシエ騒動について書くのは、もうたくさんという思いだが、次から次へとサッカー協会が問題を起こすので取り上げざるを得ない。センセーショナルではないが重要な問題が、ほかにいくつもあり、それを取り上げたいのだが延期して、止むなく今週もトルシエ騒動を……。

交渉はこれから
 「岡野会長、嘘つき」
 朝、配達されたスポーツ新聞の1面を、でっかい見出しが占拠していて「ぎょっ」となった。「嘘」という漢字だけが、また特別にでっかくて、紙面の4分の1くらいある。6月27日付け、トルシエ監督との再契約問題である。
 よくよく見ると、小さな字で「五輪、アジア杯の」とあり、続けて、ふつうの見出しの大きさで「結果次第で解任ある」と書いてある。
 さらに本文を読むと「五輪・アジア杯の結果次第で」というのは、まったくスポーツ新聞側の憶測で「解任も示唆」とあいまいな書き方をしている。それで見出しでは「五輪、アジア杯の」という部分を大豆粒くらいに小さくしたのだろう。
 これで「大嘘つき」扱いされたのでは、岡野会長はたまらない。
 前号のビバ!サッカーに、ちゃんと書いたように、岡野会長はトルシエ監督の10月末までの契約延長を確認し、ついで「2002年までの再契約」について交渉を申し出たのだった。交渉は、これから始まるわけで2002年までの再契約を決定したわけではない。決まってない契約を「結果次第で白紙に」できるわけがない。だから、この点で岡野会長を「嘘つき」呼ばわりするのは、まったく不当だ。名誉毀損(きそん)で訴えないのかと思う。
 このスポーツ紙は「2002年までの契約延長」という表現を使っている。ことしの11月以降の契約は、新しい契約であって「延長」ではない。これも見当違いである。

岡野会長の釈明
 一般紙の記事は、ずっとおだやかである。
 日本サッカー協会の常務理事会が6月26日に開かれた。
 その席で岡野会長が、日本代表のトルシエ監督と6月20日に会談した結果を報告した。
  この20日の会談のあとに、岡野会長は取材記者に対して「シドニー・オリンピックとレバノンのアジアカップの結果は、再契約にあたって考慮しない」という趣旨の発言をした。これが誤解を招いたので常務理事会の席で釈明した。
 一般紙の報道では、こういうことである。
 そうであれば、岡野会長は間違っていない。
 これまでも新聞は、中国や韓国との試合、モロッコでの国際大会、キリンカップなどのたびごとに、トルシエ監督の能力の「テスト」だとか「追試」だとか書き立てた。
 しかし、ビバ!サッカーが、常に冷静に書いていたように、こういう試合の一つ一つの勝敗を「解任」に結びつけるのは間違っている。そういう意味で、オリンピックやアジアカップを「追追試」と位置付けるつもりはない、というのが岡野会長の発言の真意だろう。それが正しい。
 しかし、オリンピックとアジアカップは公式のタイトルをかけた試合だから、一定の結果は要求される。また監督の能力に欠陥が見つかればいつでも「解任」する決断が必要になる。そこのところを会長は釈明したわけである。

サインの時期は?
 ところで、ポイントは再契約の夕イミングである。
 「オリンピックとアジアカップの内容をみてみたい」というのなら、この2つの大会が終わったあとに契約することになる。それ以前に、たとえば8月にサインをすれば、9月〜10月の内容をみて契約を取り消そうとすると「違約金」を払う必要が生じる。
 しかし、トルシエ監督の立ち場になってみれば、中途半端なまま「テストだ」「追試だ」と言われていては、やりにくい。選手を掌握するのにも余計な苦労がいるだろう。
 トルシエ監督が、シドニーとレバノンで安心して戦えるようにするのも、サッカー協会の任務である。そういう意味では、岡野会長が「再契約する意志がある」ことを早めに明確にしたのは、正しい選択である。契約条件の交渉を早めにするのも悪くない。
 この問題をサッカー協会の内部抗争のタネにしないように、くれぐれもお願いしたい。
 いまは、シドニーとレバノンで、トルシエ監督と選手たちが、安心して全力で戦える態勢を整えなければならないときである。
 会長がこういい、チェアマンがああいう。強化推進本部長がああいい、Jリーグ専務理事がこういう。それが増幅されて報道されると、監督もいい気分はしないだろうし、選手も首脳部への信頼感を失うだろう。
 とはいえ、トルシエ監督と再契約をするにしても、サインの時期は微妙な問題である。


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