日本代表チームの監督問題は、6月まで先送りになった。日本サッカー協会幹部の思わせぶりな発言がマスコミの競争に火をつけて燃えひろがったが、あと1カ月あまりも、くすぶり続けるのかと思うと、うんざりする。トルシエ続投をさっさと決めたほうがよかった。
6月へ先送り
日本サッカー協会の強化推進本部会議が開かれたのが5月10日。それまで、多くのマスコミは「トルシエ監督解任へ」と決定的に伝えていたのに一転、「トルシエ監督続投」と変わってしまった。強化推進本部ではいろいろな意見が出て、結論を明記したレポートを出せなかったという。
「トルシエ監督続投へ」の見通しは、ぼくの住んでいる兵庫県の地元の新聞には、会議当日の朝刊ですでに特報されていた。おそらく通信社の配信だろう。「同本部内の意向が10月までの続投という方向で固まりつつある」「推進本部内では、監督交代による現場の混乱を危惧する声が強くなった」と書いてあった。
強化推進本部会議では「10月までの続投」という結論にはならなかったようだが、強硬な解任論はかげをひそめた。
日本サッカー協会は、翌日の5月11日に三役会を開いた。岡野俊一郎会長、川淵三郎、釜本邦茂、小倉純二副会長、森健兒専務理事の5人による幹部会である。釜本副会長は強化推進本部の本部長でもある。
その結果、日本代表チームの監督問題は次のようになった。
@6月のモロッコ国際大会と国内でのキリンカップは、引き続いてトルシエ監督に指揮をとってもらう。
A強化推進本部には、6月の大会のあと改めてレポートを提出させる。
B後任監督は、トルシエ監督との契約が切れる6月末に決定する。
トルシエ監督は、宙ぶらりんのまま1カ月を過ごすことになった。
トルシエか西野か
6月末にトルシエ監督と再契約するかもしれない。その場合、9月のシドニー・オリンピックと10月のレバノンでのアジアカップが終わるまで契約延長という可能性もある。あるいは2002年のワールドカップまでの2年間とすることもできる。
とりあえず10月までの延長なら、アジアカップ予選に勝った時点で打ち出すべきだった。いまとなっては、よりすぐれた後任のあてがないのであれば、2002年まで抑えたほうがいい。
問題は、トルシエ監督がいいかどうか、代わりに、もっとすぐれた監督候補がいるかどうかである。
名古屋グランパスで実績を残したアーセン・ベンゲル氏に打診したというニュースも流れていた。しかしイングランドのアーセナルと2002年まで契約があるので難しい。
柏レイソルの西野朗監督が有力だという推測もあった。アトランタ・オリンピックのときの監督として実績がある。
トルシエと西野のどちらかというなら、ぼくはトルシエを選ぶ。
第一の理由は、トルシエがやろうとしているチーム作りのコンセプトは、十分に明確で評価に値するからである。西野監督が、これまでに試みてきたサッカーは。もちろんワールドカップ向けではない。西野監督は未知数である。
第二の理由は、若い選手たちは外国の一流の指導者のすぐれた手腕になじんでいるので、新しい日本人監督が信頼を得るためには、時間がかかるだろうと思うからである。
コンセプト
4月27日の韓国との試合のあと、ソウルのオリンピック・スタジアムで行なわれた記者会見で、トルシエ監督は、自分を続投させるかどうかは「私のコンセプトに賛成するかどうかだ」と語った。
トルシエ監督のコンセプト、つまりチーム作りの考え方は、これまでに十分、明確になっている。
ユースから育て、オリンピック代表チームをまとめ、それを中核にベテランも加えることを試みながらワールドカップへのチームを作り上げていく。第三段階はこれからだが、第二段階までは、すでに実績を残している。
チーム作りのやり方も具体的である。守りのフラット・スリーについては、いろいろな考え方はあるだろうが、練習を見ていれば、トルシエが自分の考えを、どう植え付けていこうとしているのかが読み取れる。
韓国戦のあとの記者会見では、体力で争うのではなく「選手はもっと余裕を持って自己表現を楽しんでほしい」という趣旨の持論も強調した。
この韓国戦の内容は、ぼくがソウルで見たところでは、なかなかよかった。韓国にも同じ意見の人がいる。韓国日報の柳承根記者が、トルシエ監督と日本選手について、すぐれた分析をして称賛している。4月28日付けの読売新聞に掲載されている。
トルシエのコンセプトを理解していないのは、実は強化推進本部の一部の幹部ではないか。ちゃんと練習を見て、試合を見て、話を聞けば、意見の違いはあるにしても、十分に理解はできるはずだけど……。
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