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サッカーマガジン 2000年5月10日号
ビバ!サッカー

外国チーム同士の公式戦上陸
ホームの権利について考える

 3月の終わりに、プロ野球米大リーグのメッツとカブスが来日して、東京ドームで試合をした。サッカーでもトヨタカップやキリンカップで外国チーム同士の試合を日本で行なっている。外国チーム同士の試合の上陸は、日本のプロスポーツにとって脅戚ではないのだろうか?

大リーグの黒船
 「日本で初めての米大リーグ公式戦」と銘打って、ニューヨーク・メッツとシカゴ・カブスの試合が、3月29日と30日に東京ドームで行なわれた。
 「黒船襲来だ」とぼくは思った。
 これは、世界中にマーケットを広げようとする米大リーグの戦略の一環であって、18世紀に欧米諸国が軍鑑をつらねてアジア諸国の独立を脅かしたのと同じように、公式戦襲来がスポーツの植民地政策につながるのではないか。
 しかし、日本のプロ野球ファン、とくに大リーグに関心を持つインテリファンは大歓迎のようだ。
 アメリカ文学を研究している大学の先生の佐伯泰樹(やすき)という人は、3月24日付けの読売新聞への寄稿で、今回の大リーグ公式戦上陸を「メッツとカブスの壮挙」と礼賛した上で「近い将来、日本はもとより韓国、台湾、はたまたオーストラリアまでもが大リーグの本拠地を擁するようになるのではないか」と楽しげに書いている。
 これでは、日本のプロ野球にとっては、ほんとに「黒船襲来」だ。米大リーグの試合のほうが、スピーディーで、力強くて、緊張感にあふれているのであれば、日本のプロ野球はファンが滅って、つぶれてしまうか、大リーグ球団のファームになってしまうのではないか。つまり米国のプロ野球の植民地になってしまうのではないか。
 ともあれ、初めての米大リーグ公式戦日本開催は、一応の成功だったようである。

フランチャイズ
 プロ野球が成り立っている基盤の一つに「フランチャイズ」がある。
 これは一つの球団が試合を興行する地域を割り当てておいて、その球団は、その地域のなかで試合を主催する権利をもち、他の地域の球団にはホームゲームをさせない制度である。
 日本では、都府県が単位になっていて、広島ではカープだけがプロ野球の試合を主催できる。名古屋はドラゴンズだけのホームである。
 東京のような広域都市では、複数の球団がフランチャイズ権を持っている。東京では読売ジャイアンツとヤクルト・スワローズと日本ハム・ファイターズである。
 ときとして、例外もないわけではない。東京のチームであるジャイアンツが、福岡でオープン戦をすることがある。この場合は、福岡の球団であるダイエー・ホークスの許可を得て特別に認めてもらうことになる。もちろん「見返り」としてホークスが東京でオープン戦をする権利を認める、というようなことになる。
 プロ野球の日米関係では、大リーグと日本プロ野球機構の間に「日米野球協定」があり、お互いにそれぞれの国での権利を認めあっている。だから、今回の米大リーグ公式戦日本上陸の場合は、日本のプロ野球機構が、特別に許可をして日本での興行を認めたわけである。
 その「見返り」が何であったのかは分からない。たぶん、実質的な見返りは何もなかったのではないか。
 そう考えると、手放しで「壮挙」を礼賛できないような気がする。

サッカーの場合
 サッカーでも、外国チーム同士の試合を日本で行なうことがある。
 毎年、12月に東京で行なわれるトヨタカップは、欧州と南米のクラブ・チャンピオン同士の試合である。
 6月のキリンカップには、最近は外国から2チームを招いている。日本を加えて3チームのリーグ戦で、外国同士の試合が1試合ある。このカードは地方都市に持っていって開催している。
 サッカーの場合は。国際サッカー連盟(FIFA=フィファ)の規則で、一つの国あるいは地域のなかでの権利は、その国のサッカー協会のものである。外国同士の試合でも、開催地の国のサッカー協会の許可ないし承認が必要である。
 というように、プロ野球でもサッカーでも「ホーム」の権利は保護されている。この考え方は大切である。
 とはいえ、外国同士の試合は、何がなんでもよくない、というつもりはない。
 大リーグ公式戦日本上陸の場合でも、サッカーのトヨタカップでも、日本のファンが、本場の高いレベルの試合を直接、楽しむことができるのはすばらしい。日本のスポーツにとっても刺激になるし、参考になることも多いだろう。
 そういう意味からすると、サッカーの外国同士の高いレベルの試合を、東京以外の地域で開催するのはいい。東京では毎年、トヨタカップがあるのだし、外国同士の試合を同じ地域でなんども開催するのは、ホームの権利を繰り返し妨げることになるからである。


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