有珠山の噴火に続いて、小沢自由党の分裂、小渕首相の入院、森新首相の登場など、さくらのシーズンにつぎつぎに大ごとが起きた。これにくらべると、日本代表のトルシエ監督が「強化日程を勝手に決めるな」と怒ったニュースは、「小せえ、小せえ」というところだが……。
批判発言の真意
オリンピック代表チームによる日本対ニュージーランド戦の前日、トルシエ監督が爆弾発言をした。
記者会見の席上で「日本のサッカーの本当の問題は戦術でも選手の資質でもなく(強化の)スケジュールにある」「日本協会は私に相談せずに(日本代表チームの)日程を決めている」
直接のきっかけは、フランスのツーロンで開かれる国際ユース大会参加問題らしい。トルシエ監督は、オリンピック代表チームを主力にしたチームを送るべきだと考えていた。ところが日本サッカー協会は、大学選抜チームを参加させることを決めた。
「オリンピック・チームの強化を担当している監督に、こういう日程決定へ発言権がないのはおかしい」というのが、トルシエ監督の発言の真意のようだ。
そうだとすれば、その主張はもっともである。ぼくはトルシエを支持する。
このときの記者会見に、ぼくは出ていなかったので、翌日、3月28日の日本対ニュージーランドの試合のときに記者席で友人にきいてみた。
「記者会見が終わって席を起ったあとに、記者たちに取り囲まれて質問攻めにあったんですよ。そのときのやりとりが刺激的にスポーツ新聞に載ったんですよ」
なるほどそうか。
トルシエ監督は、会見の席では冷静に発言権確保の主張をしたようだ。
そうであれば、ますます、ぼくはトルシエを支持する。
Jリーグとの関係
「三たび、トルシエ支持だ」と、ぼくは考えた。
香港のカールスバーグ杯で勝てなかったとき、中国との親善試合で引き分けたとき、トルシエ解任へ誘導しようとしているかにみえる一部のマスコミの報道ぶりに、ぼくは異議を唱えた。こんどで三度目というわけだが「三たび」というのは修辞的表現である。「再三再四」とか「五十歩百歩」というのと同類だ。
ところで 日本サッカー協会が、ツーロンの大会へ大学選抜を派遣することにしたのには、また別の理由があったのかもしれない。
オリンピック代表を主力としたチームは、つまりJリーグからの選抜チームになる。
Jリーグのチームはシーズン中に選手をとられるのには反対するだろう。オリンピックの本番のためならともかく、練習のたびに選手を引き抜かれてはたまらない。
そこで協会は、今回はJリーグを避けて大学選抜を、と考えたのかもしれない。協会としては、大学サッカーの面倒を見る必要もある。
というわけで、協会には協会の立ち場があることも、じゅうぶん理解できる。
だがトルシエ監督にとっては、これは納得できない理由である。いったい協会の強化推進本部は、ナショナルチームのほうを向いているのか、Jリーグのほうを向いているのか、それとも大学サッカーのほうを向いているのか、ということになる。
強化本部の立場
代表とクラブの対立は古典的なもので、世界のどこの国へ行っても珍しくない。1人の選手を二つのチームで奪いあうのだから当然である。
代表チームを編成するのは協会である。一方、クラブはリーグの試合を大事にする。だから、これは協会とリーグの対立の形になるのが、ふつうだ。つまり、代表チームの利益を守るのが協会の仕事である。
ところが日本では、協会は代表チームを援護してくれないで、逆に代表監督の足を引っ張ってるんではないか。
トルシエ監督が、そう思っても不思議はない。日本サッカー協会の強化本部あるいは強化推進本部が、代表チームをサポートするためのものなのか、評価して批判するためのものなのかという点は、トルシエ監督が就任する以前、加茂監督のころから、ぼくも不思議に思っていたところである。
日本とニュージーランドの試合が終わったあと、トルシエ監督と協会幹部との話し合いが行なわれた。
新聞報道によると、トルシエ監督は「協会批判」の刺激的な発言について謝った。しかし一方、協会は、トルシエ監督が、今後は強化推進本部の会議に出席して意見を述べることを認めたという。
これはトルシエの勝利である。
ツーロンの大会への参加問題は、直接のねらいではなかった。本当の問題は、協会の強化の組織とその運営が適切かどうかだった。ぼくの意見を付け加えれば、その担当役員が適当かどうかも問題である。
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