スペインのバリャドリードで頑張っていた城彰二選手が重傷だと伝えられた、3月15日に神戸で行なわれた日本対中国の試合で痛めた左ひざをスペインに戻ってから診てもらったら全治7カ月という診断だったという。この件の報道では、スポーツ新聞の突っ込みが、なかなかよかった。
スポーツ紙の扱い
「城○今季絶望、左ひざ前十字じん帯断裂、全治7カ月」
これは、3月21日付けのスポーツ報知の1面トップの9段抜きの縦見出しである。○の部分には顔写真が入っている。たいへんな大扱いだ。
もっとも、1面に載ったのは見出しだけで、くわしい記事と写真は最終ページだった。スポーツ紙の最終面は1面につぐ重要なページである。ぱっと広げてひっ繰り返せばすぐ見られるし、電車の中で広げて読んでいると前のお客さんに、はでに見えるからである。
他のスポーツ新聞はどうだろうかと調べてみた。
日刊スポーツは4面で大扱い、サンスポは1面に「城絶望」と見出しだけ出して本文は4面の下の方で4段見出し。スポニチは6面のトップに3段見出しで比較的じみな扱いだった。
ただし、ぼくが見たのは兵庫県加古川市で売っていた新聞である。各紙とも大阪印刷だが最終版ではない。東京印刷の最終版は、また違った扱いだっただろう。
関西のスポーツ紙について、ちょっと紹介しておこう。
関西では、よほどの大ニュースがないかぎり、1面は阪神タイガースの記事に決まっている。駅売りのスタンドで虎のマークの黄色が目立つように印刷されている。サッカーの記事は東京ほど大きくは載らない。
ただ報知だけは例外で、関西でも1面は主として巨人の記事である。サッカーの記事は他のスポーツ紙に比べると扱いがいい。
よかった突っ込み
ニュースの扱いの大きさは、まちまちだったが、スポーツ紙の記事の内容は、サンスポを除いて、なかなか突っ込みがよかった。
どこがよかったか。
まず、報知と日刊は「前十字じん帯(靱帯)」とは何かを図入りで解説していた。これは文章で説明されても分かりにくい。一般紙はスペースが少ないから無理にしても、スポーツ紙だからこそ、図解で説明して専門紙らしさをみせたのがよかった。
次によかったのは「じん帯断裂で全治5〜7カ月」という現地からの報道をうのみにせずに、日本で専門医に話を聞いたり、城の保有権をもつ横浜F・マリノスから取材していたことである。城のじん帯断裂は高校時代からの古傷で、それだけならば「それほどの重傷ではないかもしれない」と報道していた。
第三に、日刊とスポニチは、現地での城彰二本人の表情を伝えていたことである。両紙とも現地スペインの「通信員」のクレジットがついている。クレジットというのは、記事の最初に、電報パーレン([ ])のなかに書いてある発信者(記者)の名前のことだ。
両紙の通信員は、名前からみるとどちらも女性のようである。現地に住んでいる日本人に、特別に情報提供を依頼している場合に、よく通信員のクレジットが使われる。多くの場合は、ジャーナリストとしてはシロートだから、現地で新聞やテレビをみて、情報を送ってくることになる。熱心な通信員は電話取材をする。
クレジットいろいろ
「重傷だ」というクラブ側の発表にもかかわらず、城本人の表情は明るく楽観的だった、と現地の通信員は伝えている。
報知は扱いは大きく、内容もいいのだが、クレジットはあいまいである。[マドリード(スペイン)20日=国際電話]となっている。現地の情報を取材してますよ、ということは示しているのだが、情報の出所を明らかにしていない。つまり国際電話の相手先が分からない。
ぼくの見たスポーツ紙のなかで、サンスポは[共同]のクレジットを使っている。これは共同通信社が配信した記事を載せたということで自社取材ではない。それでは共同通信社は、どこで取材したのか、ということになるが、たぶん現地の支局がテレビや現地の通信社の報道をみて転電したのだろう。支局が電話取材したことも考えられるが、城本人の表情や談話はない。スポーツ紙のほうが上である。
一般紙はどうかと調べてみた。
おおかたは[共同]の記事を、そのまま使っている。
読売は例外で、欧州駐在のスポーツ専門記者のクレジットになっている。しかし「ロンドン支局発」になっているので、現地取材でないことは明らかである。ただし、日本で取材した横浜F・マリノスの「関係者の話」がついている。その点は他社よりも突っ込みがいい。
というようなわけで、城選手重傷の報道も、大学のメディア論の講義の材料になりそうである。今後の展開を注意して見守ろうと思う。
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