アーカイブス・ヘッダー

 

   
サッカーマガジン 2000年3月15日号
ビバ!サッカー

W杯への準備が遅れている?
テレビと広告の権利に問題が

 日韓共催の2002年ワールドカップの準備が遅れている。テレビ放映も広告スポンサーもまだ重要なところが決まっていない。競技場は間に合っても、それを運営する仕組みの準備は進んでいない。あと2年あまりというのは、そんなに長い時間ではない。

国内の準備は
 ワールドカップが開かれる2002年の6月まで「まだ2年以上ある」と考える人と「あと2年ちょっとしかない」と考える人がいる。
 競技場の建設は、ちゃくちゃくと進んでいる。決勝戦が行なわれる横浜国際競技場は、とっくに出来上がって何度も試合が行なわれたし、各地の新設の競技場も、ほとんど外形は出来上がっている。いちばん遅れているのは神戸だが、これは会場計画を変更したためで、それでも1年前には完成するだろう。競技施設については心配ない。
 問題は施設などのハードではない。施設を使って、どう大会を運営するのかというソフトの面である。 
 ソフトについても、競技そのものの運営には、心配は少ない。サッカーの試合のやり方は、世界各国、どこでも同じである。国際大会の運営はFIFA(国際サッカー連盟)も日本サッカー協会も手慣れている。 
 交通機関や警備防災のような、国際大会開催にともなう競技以外の運営には、多少の不安がある。日本で大きな国際大会を開いた経験は、それほど多いわけではない。ワールドカップのように日本各地に会場がまたがる大会は初めてだろう。それに今回は、韓国との共催という事情もある。これは、まったく未知の分野である。
 しかし、日本の官僚組織はしっかりしている。東京の組織委員会には、すでに警察庁や各会場地のお役人が出向している。国内に関する問題については、計画どおり準備が進むだろう。

欧州企業との交渉 
 準備が遅れているのではないかと心配しているのは、国内の運営体制ではなく外国人との交渉である。具体的にいうとワールドカップの主催者であるFIFAとの関係、さらに FIFAと契約して、テレビや広告スポンサーの権利を扱っているISLという欧州の会社との関係である。 
 テレビの放映権は、ISLと組んだ欧州の企業グループが、北米を除く全世界の権利を千数百億円で獲得した。しかし、その会社が各国に自分のテレビ局を持っているわけではない。各国のテレビ局にその権利を売って放映させることになる。 
 この放映権ビジネスの交渉が、デッドロックに乗り上げている。日本でやる大会だのに、日本で放映するテレビ局はまだ決まっていない。向こうの要求する権利金が高すぎて、日本側とにらみ合いが続いているからである。250億円から200億円をめぐる攻防だといわれている。 
 広告スポンサーもまだ決まっていない。メーン・スポンサーは14社ということになっていて、これもISLが権利を持っているが、いまのところ半分程度しか決まっていない。  
 放映権や広告スポンサーを決めるのは開催国の日本と韓国ではない。欧州の特定の会社なのである。だから開催国の都合がいいようには、必ずしもことは運ばない。 
 しかも、その収入はその欧州の会社に入るわけである。その会社はFIFAに高いお金を払って、その権利を買ったのだから、それを回収しようとするのは当たり前である。

権利ビジネス
 テレビの権利も広告の権利も、FIFAは、特定の会社に売り渡してしまっている。そのお金は、日本と韓国には、直接には入ってこない。 
 日本と韓国は、「入場料収入で経費をまかないなさい」というのが今回の大会の新しいやり方だという。世界のスポーツ競技会を巨大なビジネスにしているのは、テレビとそれに関連する広告収入だが、そのメーンディッシュの部分を親方が持っていって、子分はオードブルで腹を満たせというようなものである。 
 FIFAはメーンディッシュの部分から、日本と韓国に、それぞれ1億ドルずつ分配するという。およそ110億円である。テレビ放映料の1割にも満たない額である。もともと、日本と韓国との共催を押しつけたのはFIFAなのだから、ISLを通じて得たテレビと広告の総収入の3分の1ずつを、日韓両国に分配するくらいが当然だと思うが、いかんながら、そうなっていない。
 さて、テレビや広告の関係が決まらないと日韓両国の国内の運営準備にも大きな影響が出てくる。 
 メーンのスポンサー以外に開催国でもローカル・スポンサーを決めることが出来ることになっているが、それはメーン・スポンサーと同業同種にならないようにしなければならない。したがってメーン・スポンサーが全部決まらないと、ローカル・スポンサーも決められない。 
 これはほんの一例である。  
 2002年の準備は、権利ビジネスとのせめぎあいで遅れているのではないかと、ぼくは心配している。


前の記事へ戻る
アーカイブス目次へ

コピーライツ