トルシエ監督の率いる日本代表チームが香港でのカールスバーグ杯とマカオでのアジアカップ予選(第10組)に出場、2週間の遠征で5試合を戦った。結果はともかく、その戦いぶりの内容への評価で、トルシエ監督の続投を危ぶむ声もあるようだが……。
カールスバーグ杯
香港スタジアムで行なわれたカールスバーグ杯の2試合で、日本代表は1点も挙げられなかった。そうするとたちまちスポーツ新聞には「トルシエ監督解任も」の見出しが躍り、大仁邦彌強化推進本部副本部長や川淵三郎Jリーグ・チェアマンの談話が紙面に登場した。「ずいぶん安易に人間の進退を言挙げするものだな」というのが、ぼくの感想である。
2月5日の第1戦、メキシコとの試合は0対1の黒星だった。テレビで見たところ、日本が劣勢だったわけではない。むしろ押していたのだが、決定的なチャンスが1、2度しかなく、いいシュートが少ない。相手に退場者が出てメキシコが10人になってから失点した。「内容がよくない」と誰もが思っただろう。
2月8日の第2戦は、地元香港リーグ選抜との3位決定戦である。結果は0対0で、PK戦で日本が3位になった。これも優勢ではあったが決め手がないというところである。相手の香港リーグ選抜は、外国からの移入選手が主力で漢字名の中国人選手は3人しかいない。Aチームによる国際公式試合としてはカウントされないが、毛色の変わった相手との試合経験という点では意味があったかもしれない。
いずれにせよ、このカールスバーグ杯は、旧正月の香港でのお祭りイベントであって、タイトルマッチではない。勝敗が重要な試合ではない。
日本としては、オリンピック出場権を勝ち取った若手を大幅に加えて新たに編成したA代表の、最初の試運転だったに過ぎない。
報道はブラジル並み?
香港での試合が終わってからマカオのアジアカップ予選第1戦までに中1週間あった。
これは、チームにとってよりも、チームについている広報担当役員にとってやっかいである。というのはチームといっしょに日本から来ている新聞やテレビの取材陣も移動して、記事や映像の材料を探すからである。
試合のある日は、試合について報道すればいいから、取材陣は材料にこと欠くことはない。広報担当は、取材の便宜だけ計ってやればいい。
ところが、日本から来ている報道陣は、試合のない日も何か記事や映像を送らなければならない。練習の取材はするが、練習にはドラマが乏しいから、ちょっとしたことをドラマチックに仕立てて送ることになりかねない。
「トルシエ監督解任も」というような大げさな報道は、そういう事情のなかから生まれたのではないか、と想像した。ぼくの見たスポーツ新聞の見出しでは「解任も」の「も」の字だけ小さな字で添えてあった。うっかりすると「解任」が決定したかのような誤解を生ずる。センセーショナリズムの典型である。
ワールドカップの時にブラジル代表チームの広報担当から「試合のない日のほうがたいへんなんだよ。こまめに記者会見をして材料を提供しないと、あることないこと、何を書かれるか分からないからな」と聞いたことがある。日本のサッカーも、報道に関してはブラジル並みになったのかなと思った。
アジアカップ予選
マカオのアジアカップ予選は、2月13日の第1戦がシンガポールを相手に3対0の白星。新聞の論調は「単調な攻め、3点止まり」と、あいかわらず厳しかった。
シンガポールのサッカーは弱くはない。過去に日本が苦しめられたことは何度もある。3対0は快勝といわなければならないのだが、3点ともセットプレーからのゴールだったことが批判の対象になっていた。
16日の第2戦、ブルネイには9対0の大勝。さすがに厳しい批判は目立たなかった。これは開始3分で中山ゴンがハットトリックを演じ、三浦カズが892日ぶりの代表ゴールを決めるなど話題性がいっぱいだったためだろう。
しかし、試合の性質と相手の兼ね合いを考えると大量得点を喜んでいいケースではない。これはタイトルマッチの予選突破を確実にした試合だから、勝つこと自体が重要だったはずである。
トルシエ批判について付け加えると、香港での試合は結果は問題でなく、マカオでの試合は負ければ大問題だが勝てばそれでいい。この二つの結果でトルシエ監督の進退を言挙げするのは見当違いだろう。
トルシエ監督を、2002年めざして続投させるかどうかは、香港とマカオの結果からではなく、これまでの実績と今後についての彼の考え方から判断しなくてはならない。
見切るのなら果断に解任すべきだが、その場合は解任する側の日本の当事者の責任も厳しく追求されなければならない。
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