今年(2000年)1月中旬にブラジルで世界クラブ選手権が開かれた。試合の内容は日本でもTBSが中継したし、新聞にも報道されたが、この企画そのものが成功だったのかどうか、これからも続いて開催できるかどうか、などについてはまだ分からない点がある。
地球規模のブランド
1月初旬にブラジルで開かれたサッカーの世界クラブ選手権について、これが「第三のオリンピック」になるだろうかという点に、ぼくは興味を持っていた。
読者は「第二のワールドカップ」だろう、と思われるかもしれないが「第三のオリンピック」と考えたのにはわけがある。
地球規模の人気と熱狂の点から見れば、サッカーのワールドカップはオリンピックをしのぐものがある。FIFA(国際サッカー連盟)は、世界クラブ選手権を「第二のワールドカップに」と考えたに違いない。
しかし「地球規模のスポーツの祭典」として大成功を収めた点では、オリンピックのほうが先輩である。
1896年にアテネで第1回のオリンピックが開かれたときは、まだヨーロッパ中心の大会だった。しかし「オリンピック」というブランドはたちまち世界中を魅了して、地球規模の大会に急成長した。日本が初参加したのは1912年のストックホルム大会である。
その12年後のパリ大会のサッカーで南米のウルグアイが優勝し、続いて1928年アムステルダム大会にも連勝して、ヨーロッパが南米のサッカーの強さを知った。これが1930年にサッカーの世界選手権ワールドカップを開く動機になった。
というわけで、地球規模の企画として成功した第1号はオリンピック、第2号がワールドカップである。
世界クラブ選手権が、第三の地球規模ブランドになるかどうかに、ぼくは注目していた。
地元戦以外は不入り
というわけで、ブラジルまで取材に行った友人のカメラマンに現地の様子を聞いてみた。
「いやあ、あれは地球規模の大会じゃありませんよ。あれはブラジルの大会でしたよ」
地元のチームが出場しない試合は観客がほとんど入らない。1会場で2試合が行なわれたが、地元のチームが出場しない試合のスタンドはがらがらだったという。
「そうだろうな」と、ぼくは思った。
「アルゼンチンでは、国際試合は人気がないんですよ。ファンは地元のクラブの試合にだけ興味を持っています」と、ブエノスアイレスに住んでいる人から聞いたことがある。
アルゼンチンに限らず、どこの国でも、人びとは地元のチームに興味を持っている。それが当たり前である。とくに南米では、その町のクラブの人気が絶対的である。
今回の世界クラブ選手権は、決勝戦がコリンチャンス対バスコ・ダ・ガマのブラジル同士になった。だから、観客動員の点では救われた面があったに違いない。欧州同士のマンチェスター・ユナイテッド対レアル・マドリードの決勝だったら、日本のファンから見れば、すばらしいカードだが、ブラジル人は見向きもしなかったかもしれない。
もう一つ付け加えると、物価の違いと為替差があるから、マラカナン競技場が満員になったとしても、米ドルやユーロや円に換算すると、入場料収入は、たいしたことにはならないはずである。
集中開催の無理
もともと、このような企画には無理がある。
第一に、世界の各地域の代表を集めるとレベルの違いがありすぎる。アジアの代表と南米の代表がタイトルをかけて対等に争うのは現段階では無理である。差のありすぎるチームの試合には観客が集まらない。
第二に、地球は丸いから地域によってシーズンが違う。これを同じ時期に集めて試合をするとなると、国内の試合に支障が出てくるところが必ず出る。大会期間が長くなれば、なおさらである。
第三に、多くのチームを1カ所に集めると旅費と宿泊費がかかりすぎる。強いチームだけ、人気のあるチームだけを招いて、いいカードの試合だけをしたほうが効率がいい。
そういうわけで、世界クラブ選手権の企画は現実的ではないのだが、FIFAが、このアイディアに固執したのはテレビのためだろう。多チャンネル化で、テレビの番組が不足している。そこで新しい番組を作って売り込んだわけである。
「でも、オリンピックやワールドカップは、うまくいってるじゃないか」という声もあるだろう。
オリンピックやワールドカップは。航空機が発達していなくて、世界各地のチームや選手を1カ所に集めることが難しかった時代に、4年に1度、その困難を乗り越えて、世界のお祭りとして開催したから意義があったのだと思う。
地球が広かった時代に売り込んだブランドが、いまでも、ものをいっているわけである。 |