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サッカーマガジン 2000年2月9日号
ビバ!サッカー

小林與三次の功績を偬ぶ!
高校選手権とプロ化への貢献

 天皇杯決勝、高校選手権とお正月のサッカーを続いて取り上げなければならなかったので、ちょっとタイミングが遅れたけれども、小林與三次氏の追悼を、ビバ!サッカーに書かせていただくことにする。大きな志をもって、日本のサッカーを応援してくださった方である。

ヴェルディ育ての親
 小林與三次(こばやし・よそじ)氏が亡くなられたのは暮れの12月30日である。86歳だった。
 読売新聞社名誉会長、日本テレビ放送網会長だったから、死去のニュースは新聞に大きく掲載された。追悼の文章や談話も各方面から寄せられた。自治事務次官、読売新聞社の社長・会長、日本テレビの社長、日本新聞協会会長、日本民間放送連盟会長、政府の審議会の要職を歴任した方である。いろいろな方面での貢献があげられていた。
 しかし、サッカーについての功績は、ほかの大きな仕事の陰に隠れて紹介されていなかったようだ。そこで、このビバ!サッカーで改めて、その業績を偲びたい。Jリーグのヴェルディの前身である読売サッカークラブの草創期に、小林さんは、ずいぶん力を貸してくださった。
 「将来は日本にもサッカーのプロを」という狙いでクラブの設立を決断したのは、読売新聞社社主の正力松太郎氏だが、大正力はその後、間もなく亡くなられたので、娘婿である小林さんが、社業だけでなくサッカーでも、その志を継いでくださったのである。
 大正力はジャイアンツを創設して「プロ野球の父」と呼ばれている。ぼくたちは、読売クラブを中心に日本のサッカーのプロ化を実現して、小林さんが「プロ・サッカーの父」と呼ばれるようにしたいと考えていた。小林さんが生きているうちに、曲がりなりにも、Jリーグによってプロ化は実現した。

プロをめざす志
 大正力が読売サッカークラブの生みの親であり、小林さんが「育ての親」であったことは間違いない。その功績を忘れることはできない。
 読売クラブがスタートしたころ、選手を集めるのが、ひと苦労だった。高校や大学出のいい選手は、三菱や日立のような有力な企業に行く。読売クラブは「クラブ組織」が売り物で、選手は読売新聞や日本テレビの社員ではない。現在のようにクラブと契約するという形も認められなかった時代である。
 大企業の社員として給料をもらいながらサッカーをしたい、身分のあいまいなクラブはいやだ、と考えるのは当たり前で、まともな選手は誘っても来てくれなかった。
 「将来はプロになるにしても、とりあえずは社員選手もとらないと」と考えて、事実上のオーナーである小林さんに直訴したことがある。当時日本テレビの社長で、こちらは読売新聞のひら記者だった。
 「プロ化をめざしているのだから、それはおかしい」と一言で片付けられ、ひら記者としては、すごすごと引き下がるしかなかったのだが、いまとなって考えると「苦しくても、志を貫け」と叱られたわけで、結局それがよかったと思う。 
 そのころは、変なアマチュアリズムが日本を支配していて、社員として給料をもらってスポーツをするのはいいが、クラブからお金をもらうのは許さないということになっていた。だから、初期の読売クラブは、非常に給料の安い「もぐりのプロ」を集めて苦しい運営をした。

日朝交流のさきがけ
 正月の高校サッカー選手権が盛大になったのも、小林さんのおかげである。
 関西で運営していた大会を日本テレビ系列で引き受け、首都圏に持ってきて大成功を収めた。その当時の日本テレビ社長だった。
 ある年、高校選手権の抽選会のあとのパーティーで、小林社長が突然「47都道府県全部から代表を参加させるべきだ」と発言した。
 当時の高校選手権全国大会は、トーナメント戦に都合がいいように32チームで争われていた。これを47ないし48チームにすると、運営する現場としては都合が悪い。試合数が増え、会場が増え、経費がかかる。担当者が頭を抱えたので「代表を増やすのは無理ですよ」と直訴に及んだ。
 ここでも厳しく叱り付けられた。
 「きみたちは、全国にサッカーを普及させるためだと言ってたじゃないか。全部の都道府県から代表を出すのは当たり前だろう」
 ところで、読売グループの総帥である社長に、若造だったぼくが直訴できたのには、わけがある。
 1970年に朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に、前年度の高校選手権に優勝した習志野高校チームを派遣したことがある。当時の日朝関係は現在以上に険悪だったが、サッカー外交で、それを打開しようという試みだった。
 そのとき、最高顧問として小林社長にピョンヤンに一緒に行っていただき、ぼくは特派員として随行した。それで「ひら」が社長に親しくしていただけた、というわけである。


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