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サッカーマガジン 2000年1月26日号
ビバ!サッカー

縦横無尽のストイコビッチ!
天皇杯、名古屋優勝への貢献

 第79回天皇杯全日本選手権は、名古屋グランパスエイトがサンフレッチェ広島を2−0で破って4大会ぶり2度目の優勝を飾った。2000年元日、快晴の国立競技場。天皇杯をかかげて、もっとも輝いて見えたのは縦横無尽の活躍をみせたストイコビッチである。

数段、格上のレベル
 「ストイコビッチは、あなたにとって、どういうプレーヤーか?」ときかれて、名古屋グランパスエイトのジョアン・カルロス監督は、最大級のほめことばを並べた。天皇杯優勝後の記者会見の席である。
 「レベルの高い、すぐれたプレーヤーだ。しっかりした態度のプロフェッショナルで、みんなに好かれている。頭が良く、テクニックは抜群だ。チームにとって大きな存在である」
 まったく、そのとおりだ。「レベルが高い」という点で、とくに「そうだ」と思う。ストイコビッチのプレーは、現在の日本のサッカーのレベルから抜け出して数段上のレベルにある。
 どういう点で格上だろうか。
 まず第一にテクニックだ。1990年にイタリアのワールドカップでストイコビッチをみたとき、ウイングのポジションにいて見事な足技で突破したプレーに目をみはり「これは大物だ」と思ったものである。
 第二には、中盤からの的確なパスである。4年前にベンゲル監督のもとで名古屋が優勝したとき、ストイコビッチの中盤からの組み立て役としての能力を見直した。「ビバ!サッカー」にも、そのことを書いたと記憶している。
 そして今回、ゲームの流れを読んで、チームのなかで自らを生かした戦略的能力に感心した。
 テクニックの切れ味は、まだ衰えていない。判断力には磨きがかかっている。
 34歳。いま円熟のときである。

円熟の戦略的能力
 相手のチームは、もちろんストイコビッチをきびしくマークする。いちばんタフで、すぐれたディフェンダーがつきっきりになる。それをかわしたのが戦略的能力である。
 決勝戦で広島は、フォックスがストイコビッチをマークした。呂比須には上村がつき、ポポビッチがスイーパー役である。ストイコビッチはマークをのがれようと、しばしばタッチライン沿いに出たが、マークのフォックスは目を離さなかった。
 この堅い守りに名古屋の前半のシュート数は1だった。名古屋のほうも守りが堅く、広島のシュートも1本だけである。前半は厳しい守り合いの試合だった。
 名古屋の先取点は後半に入って間もなくの11分である。ストイコビッチは右サイドに出ていた。勝負の渦中から離れて休んでいるような感じだった。
 左サイドへ回っていたボールが、呂比須−ウリダをへて、勝負の圏外にいたストイコビッチのほうへこぼれ出てきた。
 フリーでボールをとれば、ストイコビッチのプレーは的確である。ニアポスト前への送球が、走り込んだ呂比須のヘディングにぴたりと合った。
 後半37分の2点目のときは、ストイコビッチは左サイドへ出ていた。そこへ逆襲のボールが来た。相手の守りが浮き足立っているのをストイコビッチは見逃さない。ゴール前へのドリブルは快速の戦車だった。ゴール前を横切りながら、一人、二人とかわしてシュートした。

カルロス監督の功績
 きびしいマークをかわすために、エース・ストライカーがタッチラインに出て、守りの視野の中心から消えるのは、よくある手ではある。しかし、それが見事にゴールに結びつくのは、ゲームの流れを読んで「消える」タイミングをつかみ、チャンスになると突然、現れる戦略的判断の冴えである。
 広島の方には不運もあった。スイーパー役だったポポビッチが前半15分に足を痛めて、ハーフタイムで交代したことである。
 前半ストイコビッチをマークしていたフォックスがスイーパー役に回り、呂比須をマークしていた上村がストイコビッチをマークした。この守りのシフト変更が十分機能しないうちに1点目を失った。
 とはいえ、そこをすかさず突いた名古屋は見事だった。
 ジョアン・カルロス監督は、ストイコビッチを生かして巧みな用兵を見せた。柏レイソルとの凖決勝では、前半はストイコビッチを引き気味にして呂比須だけをトップに立て、後方からの攻め上がりでおびやかした。そして、後半に柏の守りが疲れを見せたところでストイコビッチをトップに立てて勝負した。
 十分な補強をしながらリーグで振るわなかったチームをシーズン途中から引き受けて15勝1敗、天皇杯優勝まで11連勝。監督の力は大きい。
 ジョアン・カルロス監督のストイコビッチヘの賛辞の最後の締め括りの言葉もおもしろかった。
 「黄や赤のカードをもらわないで、毎試合出てくれるとありがたい」


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