シドニーの切符を手にした若い日本代表は、2002年ワールドカップヘの土台である。この土台を作ったトルシエ監督を、オリンピックからさらに2002年へと続投させるのかどうか? 協会幹部とトルシエ本人の微妙な発言が続いているのが気掛かりだ。
五輪へ延長だけ?
トルシエ監督の率いる若い日本代表が4戦全勝でオリンピック・アジア最終予選を突破した。最終戦のタイとのアウェーの試合は6対0。大量点はともかく、戦いぶりが、はつらつとしていてよかった。
となると、2年契約のトルシエ監督がどうなるのか――が話題になる。
東京でカザフスタンに勝って出場権を決めたときに「シドニー五輪も続投が正式決定」という見出しが、スポーツ新聞に躍っていた。スタンドで見ていた大仁邦彌技術委員長が「契約は来年6月までだが、10月のオリンピックまでやってもらう」と語ったのだという。
一般紙には「トルシエ監督の続投示唆」と一段見出しで載っていた。これは協会の岡野俊一郎会長の話で「予選を突破したし、これだけいいゲームをやってくれた監督だから、われわれもそれなりのことを考えている」ということである。会長の方は言い回しが慎重だ。
「それなりのこと」は、端的に言えば「契約延長でいくら払うか」に尽きる。能力は分かった、報酬はどうか、である。
だが、問題はシドニーではない。そのあと2002年のワールドカップをどうするかである。
タイとの最終戦が終わったあと、協会の森健兒専務理事が「再契約の問題はこれから検討する」と話したという記事が、これも新聞に出ていた。再契約の一方の当事者になる立場としては、筋道を説明する以外は、うっかり話はできない。
2002年が問題
トルシエ監督の方も先を読んでいる。バンコクでの記者会見のとき「次期監督は早く決めてもらいたい。再契約しないなら、オリンピックは新しい監督がやるべきだ」と語ったという。
協会幹部の発言も、トルシエ監督の話も、いわば交渉前の「サヤ当て」のようだ。
交渉には駆け引きがある。お互いに、どんなカードをもっているかを探り合う。
日本サッカー協会の手の内は、どうなっているだろうか。
「世界に名監督はたくさんいる。トルシエ以外に選択肢は、たくさんある」と言うことができるのなら、これは強い切り札だ。
しかし、実際には、トルシエ監督がこれまでに積み上げてきたものを壊して、新しい人物にゼロからやり直してもらうのは、かなり危険な選択である。
トルシエ監督の方はどうか。
シドニーへの出場権をとったという成果は、外国では、あまりものを言わないだろう。オリンピックのサッカーは、ワールドカップのようには評価されないからである。「日本をオリンピックに出場させた」という履歴は、世界のマーケットではトルシエの商品価値を、それほどには高めない。
というわけで、どちらも強力な切り札を持っているわけではない。だから、適当なところで折り合いがついて「2002年もトルシエで」ということになるのではないかと、ぼくは予測している。
再契約の時期は?
焦点は再契約の時期である。
日本サッカー協会は、10月のオリンピックの結果を見てから交渉したいと思っている。本番での手腕を確かめてからの方が安全である。
トルシエの方は、中途半端な契約はしたくない。オリンピック前に2002年までの足場を固めたい。もともとオリンピックのチーム作りは2002年をにらんでのことである。
あるいは内部には、われわれには分からない別の事情があるかもしれないが、まあ、それほどのことはないだろう。
秘密の事情がないのであれば、ぼくはトルシエの肩を持つ。
つまり、すっきりと再契約をしてオリンピックに臨んでもらいたいと思う。トルシエは、十分に手腕を示して成果を挙げている。
もちろん契約だから、お金の問題がからんでくる。協会の方に他の選択肢がなければ、足許を見られて高い報酬を要求されるかもしれない。だから、うっかりしたことは言えないし、他の候補者も考えておかなければならないだろう。
しかし、トルシエの方も、日本を離れれば世界の需要と供給のマーケットに放り出されるのだから、そう法外な要求はできない。日本はワールドカップで実績のない国である。開催国という有利な条件で前よりもいい成績を挙げるのは難しくない。働きがいのある国である。
岡野会長の考えている「それなりのこと」で、折り合いがつきそうなものだと思う。
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