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サッカーマガジン 1999年11月17日号
ビバ!サッカー

国立競技場の三つの試合
いろいろな試合を楽しむ

 「サッカーは、いろいろだ」というのが長年のぼくの持論である。試合の性質によって楽しみ方にも、論評のし方にもいろいろある。オリンピック予選のために書く機会を失していたJOMOカップとラモスの引退試合の感想を、いろいろ違う角度から書き留めておく。   

日本対タイの評価
 同じ試合を見ても、人によって評価が違うことがある。
 「いろいろな人が、いろいろな見方をするから、サッカーは楽しいんだよ」と言えばそれまでだが、日本対タイの試合について、週刊専門誌でかなり手厳しくトルシエ監督の作戦を批判した記事が目に付いたのには驚いた。10月17日に東京の国立競技場で行なわれたオリンピック予選の試合である。
 3対0で日本が勝ったので日本の新聞や雑誌は、結果については文句は言ってない。「ばんざい、ばんざい」である。とくに日刊の新聞は、試合終了後1時間くらいのうちに記事を書いて送らなければならないのだから、とりあえず「ヒーローばんざい」である。
 サッカーマガジンのような週刊誌も、実は印刷所で待たせてあるカラーページに原稿を突っ込まなければならないから、それほど時間に余裕があるわけではない。しかし、発売日が新聞よりも3日くらいは遅れるから、新聞と同じような調子で書いていては「なーんだ。3日前の記事と同じじゃないか」と読者に思われてしまう。そのために、ひとひねりして手厳しい批判を書きたくなるのではないか、と考えた。
 ポイントは、前半の日本が高いボールを相手のゴール前にあげる力攻めを繰り返したことである。
 これはトルシエ監督の作戦で、本人がそう言っていたし、ぼくもそう書いたのだが、本誌ではないある雑誌には、これを手厳しく批判している記事が出ていた。

JOMO杯の楽しさ
 同業の仲間の悪口を書くつもりはないので、誤解しないでいただきたい。「ずいぶん書き方が違うなあ」と思っただけである。
 読み比べて「うむ、こいつはまるで分かってない」などと嘲笑するのは読者のほうの権利だろう。
 サッカーには、いろいろな種類の試合がある。それぞれ戦い方にも、楽しみ方にも違いがあっておかしくない。
 タイとの試合の1週間前。10月11日に同じ国立競技場でJOMOカップがあった。Jリーグの日本選手の選抜と外国人選手の選抜とのエキシビション試合である。これはすばらしく、楽しい試合だった。
 ヨーロッパから2人のスターが、ゲスト・プレーヤーとして招待されていて、外国選抜に加わった。バッジオとレオナルドである。
 この2人が、自分のいいプレーを見せようと、まじめにサービス精神を発揮した。バッジオは、はなやかな技巧に飾られたドリブルを見せて2ゴールをあげ、レオナルドは中盤からの洗練されたキックとパスで3ゴールにからんだ。
 3対1で外国選抜の勝ちという結果には意味はない。2人のゲストを立てて他のプレーヤーも、まじめなサービス精神でプレーした。
 相手の日本選抜が守りの手を抜いたわけではない。しかしゲームの楽しさを破壊するような、厳しいプレスをかける守りはしなかった。
 プログラムの表紙に「お祭り、ではない」と印刷してあったが、楽しいお祭りだったら、それでいい。

ラモスの引退試合
 さらに、ずーっとさかのぼって、夏の盛りの8月23日に、これも国立競技場で行なわれたラモスの引退試合のことを書き留めておこう。
 ラモスの試合は、ヴェルディの前身の読売サッカークラブに来たときから、ずーっと見ているので、最後の試合についての、ぼくの感想を、ぜひ書いておきたい。それも、34年前の創刊準備号以来、ずーっと書き続けているサッカーマガジン誌上で歴史にとどめたい。というわけで、2カ月以上前の試合の話を書かせてもらうことにする。
 この引退試合については、ずっと前にヴェルディの側とラモスの側に契約があった、ということである。その約束にしたがって、クラブ側は赤字の場合の危険を負担し、ラモスの側は収益が出た場合にそれを手にする権利を確保して開催したのだと聞いた。
 国立競技場はほぼ満員で、これも楽しく盛り上がった試合だった。カズと前園が出ることになって切符の売れ行きが急に伸びたという。「カズとゾノのための試合みたいだな」という友人もいたが、ラモスも楽しそうにやっていた。
 ただ、ぼくのような古い人間から見れば、ラモスの親しい仲間だけの顔触れみたいで、ものたりない。ジョージ与那城や戸塚哲也の引退試合も見たかったな、旧読売クラブの仲間たちを、いろいろないきさつは超えて集めたかったな、と感傷的な思いがした。
 ともあれ、これも「ひとつのサッカー」である。


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