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サッカーマガジン 1999年11月10日号
ビバ!サッカー

勝負師トルシエの成功!
シドニー見えた五輪代表

 オリンピックをめざすU−22の日本代表は、アジア最終予選の前半でカザフスタンとタイに連勝し、希望を大きくふくらませた。単にシドニーへの出場権だけの話ではない。トルシエ体制で2002年ワールドカップをめざすことができるかどうかの問題である。

作戦通りタイに快勝
 オリンピックをめざす若い日本代表は、10月17日に東京の国立競技場で行なわれたアジア最終予選第2戦でタイに3対1で勝った。アウェーの初戦、カザフスタンとの試合の快勝に続いて2連勝である。
 「予定どおり勝ち点6を確保した。これで11月6日に東京でカザフスタンに勝って出場権を決めることができる」
 トルシエ監督は試合後の記者会見で「計算どおり」と雄弁だった。
 10月30日にバンコクで行なわれるタイ対カザフスタンが引き分けになればその時点で日本の出場権が決まる、というケースもあるのだが、3勝目をホームであげて決めたほうが盛り上がるだろう。気をゆるめてはならないが、希望は決定的にふくらんだ。
 東京でのタイとの試合では、トルシエ監督の作戦が、ぴたりと的中した。こんなに狙いどおりになった試合も珍しい。
 守りを固めるタイに対して、日本は前半、高い、長いボールをゴール前にしきりにあげた。
 こういうハイクロスの攻めは、よほど力の差がないかぎり、守るほうがやりやすい。ディフェンダーは、はじめからボールのほうに向いて構えているのだからヘディングしやすいし、ゴールキーパーは、かなりのボールをとることができる。
 前半のシュート数は8対1で日本が断然優勢、タイは守りに追われてはいたが、守りのヘディングは、ほとんど取っていた。見た目ほどには、タイはピンチの連続だったわけではない。

みごとな平瀬投入
 前半は0対0。
 日本の攻めは、力づくで一本調子のようにみえた。
 しかし、これはトルシエ監督の作戦である。 
 9人〜10人をペナルティー・エリア近くまでさげて守りを固める相手を攻め崩すことは、かなり力に差があっても簡単ではない。ましてタイは侮ることのできない相手なのだから、攻めあぐんだあげくに逆襲の一発を食う可能性だって十分ある。 
 そこで、トルシエ監督は、厚いタイの守備陣を攻め崩す前に、ゴールの確率は低くても、相手を懸命な守りで疲れさせる道を選んだ。
 高いボールをあげるいわゆるロビング攻撃のほかに、サイドの攻め上がりから低い速いボールをゴール前へ入れる攻めも試みた。 
 これもタイの守備陣に当たってはねかえされる。パチンコの玉のように釘で守られているなかに放りこんでも、はねかえって偶然ゴールに入ってくれるようなことは望み薄である。相手はパチンコの釘のように立っているのではなく、意図的に動いて守るのだから、なおさらである。
 だが守るほうは、空中からとサイドからの攻めを繰り返されて走り回っていると、肉体的にも消耗してくる。相手を消耗させたうえで「勝負!」というのが、トルシエ監督の狙いだった。 
 後半、温存していた平瀬智行を交代出場させる。出足の鋭さと身長1メートル83の高さで、守りに疲れた相手の集中力のゆるみをつこうという用兵だ。これが、みごとに的中した。

当たり前の戦略
 後半開始4分、9分、13分に、日本が立て続けに3点を取る。最初の2点は平瀬のゴール、3点目は平瀬のアシストだ。絵に描いたような交代的中だった。
 先取点はコーナーキックから。トルシエ監督は、練習の最後にいつも狙いのあるコーナーキックをやらせている。それが今度も実った。この先取点は効果的だった。
 こういうトルシエ監督の作戦は、奇策ではない。むしろ当たり前の戦略である。だが、これまで当たり前の戦略をきちんとやらなかった監督が、たくさんいたのではないか。
 奇策をいじくりまわすのが勝負師ではない。勝つために必要な手段を実行するのが勝負師である。
 そういう意味で、アジア最終予選のスタート・ダッシュ成功は、トルシエ監督の勝負師としての成功だったと思う。この試合は「勝つこと」がすべてである。「かっこいいサッカー」をする必要はなかった。
 タイのよかったところも、ビバ!サッカーに留めておこう。
 守りの中心のニルツ・スラシアンは抜群だった。出足が鋭く、インターセプトから一気に攻め上がるスピードも、すばらしかった。
中盤のキサナ・ウォンブッデーの足技も印象的だった。くねくねとボールをキープして1人、2人と抜きさるプレーは、東南アジアのサッカーの面白さを見せてくれた。
 今回の試合は、国内の態勢、気候などの条件で、タイは不利だった。にもかかわらず、なかなか、いいところも見せたと思う。


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