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サッカーマガジン 1999年10月27日号
ビバ!サッカー

五輪最終予選がスタート
U−22代表の恍惚と不安!

 シドニー・オリンピックのアジア最終予選がはじまった。1次予選を勝ち抜いた9チームを3組に分けてのホーム・アンド・アウェーである。Cグループの日本は、カザフスタンとタイが相手。遠征試合が遠くて気候に不安はあるが、組み合わせとしては恵まれている。

第1戦はアウェー
 オリンピック最終予選の日本の第1戦は10月9日、アルマトイでのカザフスタンとの試合だった。カザフスタンが「先にホームでやらせてくれ」と希望したので、こういう日程になったのだという。
 ホーム・アンド・アウェーだから遠征の旅費は自分で負担しなければならない。そのお金がないので、まずホームで試合をして、入場料収入で遠征費を稼ぎたいのだという。
 テレビの放映権はアジア・サッカー連盟(AFC)が、一括して香港の会社に売っている。その収入のなかから、カザフスタンにも配分があるはずだと思ったら、オリンピック予選については「それはない」という話だ。アルマトイでの試合は、日本へも中継されるから、日本のテレビ局は、かなりの放映料を払うはずである。ブラウン管に登場するチームに取り分がないのはおかしいんじゃないかと思う。        
 ま、それはそれとして、第1戦がアウェーというのは、日本にとってはどうか?            
 時差があって、気候にも慣れてないアルマトイまで出掛けるのが不利なことは、いうまでもない。   
 しかし第1戦は、事前に時間を取って十分に準備をすることができるから、アウェーの不利をなんとかカバーすることができる。詰まった日程の途中で遠征するよりは、対策をたてやすい。   
 初戦で大敗すると後に響くけれど、アウェーは引き分けでもいい。負けても1点差ならまあまあだ。というわけで、初戦の遠征は悪くない。

ソウルでの日韓戦
 第1戦の前に十分に時間の余裕をとることができたので、U−22の日本代表チームは2週間前の9月26日に成田空港近くのホテルに集合してまずソウルに行き、9月27日に韓国オリンピック代表チームと親善試合をした。そのあと、ドイツに飛んでキャンプを張り、試合の2日前にアルマトイに入るスケジュールである。時差ぼけを最小限に食い止めるためにも一つの方法だし、気候や食事に不安のある現地に直前に乗り込むのも悪くはない。
 こんな準備ができるのを「ありがたい」と思わなければならない。お金がないから最初にホームで試合をしたい、というカザフスタンにくらべて恵まれている。考えようによっては非常に不公平である。
 ところで――。
 9月27日のU−22の日韓戦を、ソウルまで見に行った。これは9月7日に東京で行なわれた試合のリターンマッチである。    
 東京での第1戦は4対1で日本の大勝だった。しかし、この得点差は必ずしも日韓の実力差ではない。トルシエ監督も、第2戦の前日に、ソウルで主として韓国の報道陣を前に行なった記者会見で「両国にそんな力の差はない」と言っていた。
 ソウルでの第2戦も、1対0で日本の勝ちだった。後半36分、明神が右から低いライナーの見事なボールを入れ、福田と柳沢がゴール前へ走り込んで、もつれて入った。
 力の差はない。しかし、アウェーの試合で勝ったのは、若い選手たちにとって貴重な経験だった。

ヒデがいなくても?
 東京でのU−22日韓戦には、ヒデこと中田英寿がイタリアのぺルージャから戻って加わった。「ヒデのいるオリンピック・チーム」が見どころだった。
 ソウルでの第2戦には、中田英寿がいなかった。こちらは「ヒデのいないオリンピック・チーム」が見どころだった。単なる親善試合を、わざわざソウルまで見に行った理由の一つは、そこにある。
 ヒデのいないU−22日本代表もなかなかだった。「守りに重きを置き、チームで戦う」という試合を、しっかりとやった。
 重要な役割を果たしたのは、3人の守備ラインの前にいる遠藤保仁と稲本潤一の2人である。
 トルシエ監督の戦法は、3人の守備ラインが浅いラインを作り、いっせいに前へ出てオフサイドラインをあげる。この「フラット・スリー」と呼ばれているラインの前で、遠藤と稲本が相手にプレスをかけ、守備ラインのカバーにも駆け戻る。さらに攻撃では、ミドルシュートでおびやかす。この2人のオールラウンドな活動がチームのカギである。
 第1戦では「ヒデのいるチーム」の可能性に「うーむ」と感心し、第2戦では、遠藤と稲本を軸としたチームワークにうっとりした。
 だが一方で、ヒデが入るときと、いないときを、うまく使い分けられるかどうかが不安である。また、ソウルの試合では、フラット・スリーが、なんどもオフサイドを見逃されていた。これも不安である。U−22日本代表に恍惚と不安がともにある。


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