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サッカーマガジン 1999年10月13日号
ビバ!サッカー

ヴェルディは変わった
後期の前半戦から(上)

 Jリーグの後期(セカンドステージ)の中断前までを終わったところで、これまでに見た試合の感想をまとめてみたい。全体として、まじめに、真剣に試合をしているのは、なかなかいい。若い選手が活躍しているのもいい。しかし、人気に陰りが出ているのは気掛かりだ。

さびしい等々力
 夏の間に、できるだけJリーグの試合を見て回った。とはいっても、見ることのできた試合も、チームも、また会場も限られている。だから偏った感想ではあるが、見聞したことの一部を紹介しておこう。
 まず、ヴェルディ。夏休みで東京に行っていた間に等々力競技場のホームゲームを2試合見た。
 最初に見たのは、8月28日のアビスパ福岡との試合である。
 東横線とJRが交差している武蔵小杉の駅をおりると、緑のフラッグが、にぎやかに連なり、駅前では緑のユニホームを着た弁当屋さんとバスの係員が、客引きに声をはりあげている。ここはサッカーの町、ヴェルディの駅という感じである。
 ところが、5分間バスに乗ってスタジアム近くにくると、もういけない。
 さびしい公園のなかを、試合を見に行く人たちが、もくもくと歩いている。緑の旗もない、歌声もない。観戦に行く人たちばかりで、応援に行く人は少ない感じだった。Jリーグがスタートしたときの燃え上がるような熱気は、どこにもない。
 スタンドの入りは、応援団がひとにぎりという印象である。それでも発表の観客数は5千人をわずかに超えて、今シーズンでは、いいほうだということだった。
 ほかのチームの会場にも、似たような現象はあるけれど、Jリーグ発足のころはヴェルディがブームの主役だっただけに、とくに火が消えたようなさびしさを感じる。これは、なんとかしなければならない。

チームは改造中
 このころ、ヴェルディは苦しい試合をしながらも勝ちつづけ、優勝をうかがう勢いだった。それでも、スタンドに熱気が乏しいのは、ラモスやカズや柱谷といった、かつてのスターがいなくなったためもあるだろう。「ヴェルディ改造中」で、新しいスターは、まだ知名度が低いのである。
 この日の試合は、2対0でヴェルディがアビスパに勝った。浦和レッズから移籍した桜井直人が2ゴールとも攻めの起点となり、試合のヒーローになった。ヴィッセル神戸から戻ってきた林健太郎がボランチで守りの軸になり、ブラジルから戻った若手の中沢佑二が守備ラインにはいっている。
 ゴールキーパーは、ガンバから来た本並健治で、これが再三攻守を見せている。このポジションには、日本代表だった菊池新吉とU−22日本代表の小針清允もいて、出番がないのが、もったいない。 というわけで、新しいメンバーもなかなかのものである。
 試合が終わったあとで、記者席の友人が「新しいヴェルディは、いいでしょう」と、ぼくに声をかけた。
 たしかに――。
 試合ぶりは悪くない。
 第一に、守りにも攻めにも、狙いがある。はやく動いて攻め、二人がかりでプレスして守る。
 第二に、それを一生懸命やる。その点では、ただ一人、残っているベテランのスター、北沢豪がきいている。
 「でも」――と、ぼくは思った。

判断が遅いのは?
 「でも、ボールをぴたりと、さばいていないなあ」
 これが、改造中のヴェルディについての、ぼくの感想である。
 味方からパスがくる。そのボールを一瞬のうちにコントロールして、次の味方に出す。あるいは、ドリブルで突破する。そこのところの判断が遅い。ボールを受けて、コントロールし、それからまわりを見て、次のプレーをする――という感じだ。そういう、すばやい判断とコントロールという点では、古いメンバーの北沢が、改造中のヴェルディでも一番である。
 そんな感想を述べたら、友人が反論した。
 「そういうタイプの選手を起用してないんですよ。それが新しいチーム作りの方針なんでしょ」
 その次の週に、東京都稲城市のヴェルディのクラブハウスを訪ねたとき、李国秀・総監督と会った。李国秀さんは、ヴェルディの前身だった読売サッカークラブの創設時代にクラブの天才少年だった人で、いまヴェルディの現場を取り仕切っている。
 「いや、なかなか、いい試合だったね」と、ぼくはプラスの面を取り上げて、お世辞を言った。
 李国秀さんは笑って答えた。
 「ほんとは、1試合だけ見て話してほしくないんだよね。3試合くらい続けて見てほしいですね」
 「ごもっとも」と、9月4日に、また等々力でベルマーレ平塚との試合を見に行った。2対1のVゴール勝ち。この日も桜井がヒーローだった。


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