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サッカーマガジン 1999年9月22日号
ビバ!サッカー

清水の少年大会に学ぶ(中)
学校サッカーと強化の両立

 夏休みの後半に行なわれた全国少年少女草サッカー大会の男子の部で、地元の清水FCが決勝戦で韓国の光徳小学校を破って優勝した。選抜FCと単独小学校の争いが適切かどうかには問題もあるが、普及と強化を両立させようとしている清水の努力は高く評価すべきだろう。

清水FCの優勝
 全国少年少女草サッカー大会の今年の優勝チームは、男子は地元の清水FC6年、女子は栃木の宇都宮ジュベニールだった。
 8月23日に日本平のスタジアムで行なわれた男子の決勝戦で、清水FCは、韓国から招待された光徳(クヮンドク)小学校を1対0で破った。13回目の大会で2年ぶり8度目の優勝である。前年は韓国のハンソル小学校が優勝しているので、タイトルを地元に奪い返した形になった。
 普及のための小学生の大会で、優勝にこだわる必要はない。まして日韓対決などと肩をいからせることはないのだが、それでも、ちょっと考えてみたい点はある。
 地元の清水FCは、いわゆる「選抜FC」で清水市内の小学校から優秀選手を選んだ代表チームだ。各選手の母体である清水市内の各小学校チームは、また別に少年団としてそれぞれ単独で参加している。
 そういう事情を考えると、二つの面で「不公平」がある。
 清水市内の小学校チームにとっては、エースを清水FCに供出して、残りのメンバーで同じ土俵に上がらなければならないのが、ハンディキャップである。
 韓国のチームにとっても、自分たちは単独小学校チームなのに、優勝を争った相手は広域選抜チームだというところに、割り切れない思いがあるのではないだろうか。
 清水市内から少年団など20以上の単独チームが参加しているのに、あえて「選抜FC」を出場させるのはなぜだろうか?

選抜の英才教育
 地元の関係者の話は、次のような趣旨だった。
 「清水市内の少年たち全部を含む1つのクラブという考え方ですよ。そのなかのトップのチームが、清水FCの名前で出ているわけです」
 つまり市内の小学校単位のチームは、一つのクラブのなかの、いろいろなチームである。その一つのクラブから、20以上のチームが一つの大会に出ており、そのなかに、特別に編成された代表チームがある、ということになる。
 ちょっと無理な考えのようにも思ったが、特別に「選抜FC」を編成して出場する大義名分の一つは、優秀選手を集めて英才教育をして、将来の日本代表を育てることにあるのだろうと、ぼくは推測した。
 素質のいい選手をレベルの高い仲間とともにプレーさせれば、技術的に進歩する可能性は大きいだろう。努力して自分自身のレベルをあげないと、仲間についていけなくなるからである。
 しかし、小学生くらいの年齢では英才集中教育のマイナスも、いくつかある。
 たとえば、こういう考えがある。
 弱いチームのなかのエースは、チームの中心として仲間をひっぱり、自信をふくらませることによって、リーダーシップを身につける。子どものころは、そういうふうにして素質が伸びていくものだという。
 幼い英才を集めて、まとめて鍛えようとすると、すぐれた素材の多くをつぶしてしまう心配があることになる。

韓国指導者の感想
 そういうわけで いろいろ考えるべき点はあるのだが、それでも清水の少年少女草サッカー大会のユニークな試みは高く評価すべきだろうと思う。
 これは、学校のスポーツと地域のスポーツを合わせて包み込もうとする試みである。
 また、底辺への広い普及と頂点への高いレベルアップをつなごうとする試みである。
 よみうりランドの全日本少年サッカーでは、ヴェルディとレイソルが決勝を争った。このようなJリーグ・クラブの下部チームは学校スポーツを切り離して組織されている。
 しかし、清水FCはエスパルスの下部組織ではない。小学校単位の少年サッカーの普及をレベルアップに結びつけるために長年続けている、しつこいまでの努力である。
 大会には、今年は韓国から2チームが参加した。単独の小学校チームだったが、選抜の清水FCと互角以上に争うレベルの高いチームだった。
 その韓国の少年サッカーの指導者は、白分たちのサッカーのレベルの高さを誇るよりも、日本のサッカーの普及のほうに目をみはった。
 清水の大会には、いろいろなレベルのチームが、男子だけで256チームも集まっている。 
 「韓国では全国の少年チームを全部集めても、これだけの数にはならない。底辺を拡大することが、これからのわれわれの諜題だ」
 日本の少年サッカーの普及への努力と成果に感心していた。


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