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サッカーマガジン 1999年9月15日号
ビバ!サッカー

清水の少年大会に学ぶ(上)
地域の協力と結びつき

 今年で13回目を迎えた静岡県清水市の全国少年少女草サッカー大会は、夏休みの各地で行われる小学生対象のサッカー大会のなかで、もっとも大規模で、また、ユニークなものである。大会のあり方にも、運営にも、いろいろな角度からくふうがこらされていることを紹介したい。

地元の総力をあげて
 前々号と前号に続いて、少年サッカー大会のことを、もう少し考えてみることにする。 
 実は、前号に「全日本少年少女草サッカー大会」紹介を書いたあと、思い立って静岡県清水市へ行ってみることにした。現場で苦労している人たちの経験に耳を傾けないで、頭の中で議論していても空論にすぎないと思ったからである。
 東海道本線の清水駅から、清水港へ行く途中の市街地のまん中、市役所の向かいの商工会議所のビルの5階の一室に大会の事務局があった。
 駅の公衆電話から電話したときには「いま、役員はみな出掛けていて留守ですけど…」ということだったが、強引に押し掛けたら、大会実行委員の牧田博之さんと事務局長の小島鋼雄さんが、電話連絡を受けたのだろう、現場からわざわざ戻ってきてくださった。 
 お話をうかがって、目から鱗(うろこ)が何枚も落ちる思いがした。
 1枚目の「うろこ」を落としてくれたのは「草サッカー・パサールカード」である。
 大会に参加している5000人以上の子どもたちが胸からぶらさげる、いわばIDカードのようなものだが実は静岡、清水一帯の静岡鉄道のバスと電車の無料パスになっている。 
 それに清水市商店街のお店では、このパスを見せると割引きサービスがある。 
 「これは、清水の地元の人たちが総力をあげて大会を開き、子どもだちを歓迎しているシンボルだ」と思った。

育成会のボランティア
 子どもたちが市内バスを乗り回したり、お土産を買いあさったりすることは、それほどは、ないかもしれない。
 しかし、地元の有力な企業や商店街が大会に協力している「しるし」を提供していることは、それだけで、あたたかい歓迎である。
 この「パサールカード」のデザインがいい。子どもがボールを蹴っている漫画ふうの絵だが、少年用と少女用で人物も色も、かわいらしく描き分けてある。これも、れっきとした「乗車券」だから鉄道ファンの切符収集の貴重な対象ではないか、と思った。
 目から2枚目の「うろこ」が落ちたのは、大会運営のボランティアの話を聞いたときだった。
 大会の概要は前号で紹介したが、男子だけで256チーム、女子32チームを受け入れて、全部で1106試合をするシステムである。この運営がたいへんである。
 そこで男子は16チームずつ16グループ、女子は8チームずつ4グループに分けて最初のリーグ戦をする。この全部で20のグループを、それぞれ地域別の育成会が担当しボランティアで運営する組織ができている。
 育成会というのは、小学校ごとにあるサッカーチームの「父母の会」である。小学校のサッカー部の現役部員の親だけでなく、すでに卒業した部員の親たちも協力している。
 会場ごとに1〜3つの育成会が連合して、それぞれ独立に責任をもって運営している。全部で37の会場の大半は学校のグラウンドである。

地域分権の運営
 男子16、女子は8チームずつのグループの試合を「ミニカップ」と呼んでいる。実際に各グループで独自のカップを出している。
 たとえば「三保松原カップ」がある。このグループの試合は、この地域の三保第一小学校と第五小学校のグラウンドで行われる。運営は三保一小の育成会である。「高部けやき太郎カップ」とか「国際ソロプチミスト庵原杯」とか、ユニークな名前がのある。ソロプチミストは国際的な組織をもつ女性の地域クラブである。地元のクラブにカップを寄贈してもらったのだろう。
 「八中グリーンカップ」もある。これは第八中学のグラウンドを使う女子のグループである。
 それぞれのグループに大会会長がおり、運営委員長がいる。つまり、グループごとに責任をもって運営しているわけである。大会全体は、その連合体として成り立っている。
 「これは地域分権だ」と、また目から一枚「うろこ」が落ちた。
 いま、日本のサッカーは「地域に根ざす」などと口では言いながら、中央集権的に統制し、中央にお金を集めようとしているのではないか。しかし、多くの人たちの力を結集するには、清水のように手足になる組織を固め仕事を任せるほうがいい。
 大会中に大雨が降って小学校のグラウンドは、ぬかるみになった。
 総動員で雑巾でグラウンドの水を吸い取り、なんとか試合ができるようにしたのは、自分たちのグループに責任を感じている育成会のボランティアだった。


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