アーカイブス・ヘッダー

 

   
サッカーマガジン 1999年9月8日号
ビバ!サッカー

清水の少年少女草サッカー
普及への貢献を評価しよう

 夏休みの小学生のサッカーの全国大会として、8月はじめの全日本少年サッカー大会のほかに、8月下旬に静岡県清水市で「全国少年少女草サッカー大会」がある。上旬の大会が選手権の色を濃く打ち出しているのに対し、こちらは、サッカー普及のための大会である。

世界最大の大会?
 今回は、前回の少年サッカーの話の続きである。
 8月はじめの「よみうりランド」の全日本少年サッカー大会に続いて下旬には、清水市で「全国少年少女草サッカー大会」があるのだが、これが案外、知られていない。
 「清水の草サッカー大会? それって、なんですか?」と聞かれたことももある。
 今年は8月19日から23日までの5日間、清水市とその周辺の37会場で開かれた。
 参加は男子256チーム、女子32チーム。合計288チームという大規模な大会である。1都市で開催する大会としては、世界最大ではないだろうか。
 男子には韓国から小学校チームが二つ、海を越えて参加している。香港の日本人少年チーム「ジュニアJリーガーズ」も参加した。
 ことしで第13回。Jリーグよりも歴史は古い。サッカーブームに便乗して、にわか仕立てで始まった大会ではない。Jリーグ・ブームよりも前からの大会である。いまのJリーガーの若手の中には、小学生の時、この大会に出た選手も少なくないはずだ。
 そういう大会が、あまり知られていないのは、一つには、この大会が「参加する子どもたち」のための大会で、ファンのための大会ではないからだろう。
 Jリーグ・ブーム後のファンは出来上がったスターは追い掛けるが、そういうプレーヤーを育てた苗床には目を向けない。

少年選手権の弊害
 「よみうりランド」の全日本少年大会も、もともとは子どもたちへのサッカー普及が狙いで始まったが、そのころの協会首脳部のイメージは「全日本小学校選手権」だった。
 このイメージには、二つの側面がある。 
 一つは、学校体育を通じてサッカーを普及させることであり、もう一つは「選手権」として日本一を決める真剣勝負のなかでレベルアップをはかることである。 
 しかし、そのころすでに「教育」についての別の考え方が登場しはじめていた。 
 新しい考えの第一は「スポーツを学校単位でやる必要はない」ということである。心身の発達段階を考えて年齢別に分ける必要はあるにしても、必ずしも学校単位でなくてもいい。近所に住む子どもたち同士の地域単位でチームを作ればいい、という牡会体育論である。
 第二は、小学生や中学生の段階で日本一を争う「選手権」は有害無益だという教育論である。成長しつつある途中で、勝つことを目標に子どもたちを鍛えると、骨や筋肉に障害が生じるだけでなく、子供たちのアイデアをのびのびと伸ばすことを妨げるからである。
 小学校は地域単位にあるから、全日本少年大会は、地域のクラブの考えとは、それほど矛盾はなかった。しかし、勝つための「選手権」の弊害は、たちまちにして表われて市町単位で優秀選手をピックアップした「選抜FC」が、優勝をめざして出場するようになった。

いろいろな交流
 静岡県清水市の「少年少女草サッカー大会」は、よみうりランドの全日本少年サッカー大会のアンチテーゼとして登場したのじゃないか、という気がする。
 よみうりランドの大会が、1都道府県1代表(前年優勝チームの県は2代表)で優勝を争うのに対し、清水の大会は「だれでも、どこからでも」を建て前にしている。
 実際には、日程や会場や宿泊の都合があるから参加チーム数に上限はあるが、趣旨としては「チャンピオンシップ」ではなく「草サッカー大会」である。
 男子の場合は、256チームをまず4チームずつに分けて総当り戦をするところからスタートし、順位別に勝ち抜き戦を組み合わせて、最終日までに、すべてのチームが8試合ずつを行ない、全部の順位が決まるように工夫されている。女子は32チームで同じような方法である。
 順位が決まるシステムにはなっているが、順位を争うのが目的ではない。多くのチームが集まって、いろいろな地域のチームと交流できるようになっている。
 こういう方式が、少年少女のサッカーの全国的な普及と、指導者たちの交流に役に立つことは確かだろうと思う。
 ここでも、選抜FCの問題がないわけではないだろう。もともと選抜FCの元祖は清水である。
 とはいえ、普及に果たしている功績のほうに注目したいと思う。実情がどうであるかは、もう少し調べてみることにする。


前の記事へ戻る
アーカイブス目次へ

コピーライツ