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サッカーマガジン 1999年7月21日号
ビバ!サッカー

多チャンネル時代のテレビ
スポーツ放映はどうなる?

 テレビのデジタル化が進みはじめている。いま多くの家庭で見られている地上波の番組も21世紀のはじめまでにデジタル化される予定だ。空からはCS衛星放送の番組がすでにデジタルで降ってきている。それがサッカーにどういう影響を及ぼすかを考えてみたい。

デジタル化の大波
 いま、日本の地上波のテレビはアナログである。NHK総合、教育の2チャンネルのほかに、日本テレビ(読売テレビ)、フジテレビ(関西テレビ)など民放が5系列ある。そのほかに地方の独立局もいくつかある。これが2010年ごろまでに、デジタルになることになった。
 アナログとデジタルは、どう違うかという技術的なこと、あるいは経費のことは、ここでは取り上げないことにして、視聴者のぼくたちに直接関係のあることをいえば、おおまかにいって二つの変化がある。
 一つは多チャンネル化である。
 たとえば現在、民放は各局1チャンネルであるが、現在と同じ電波で1局が3チャンネル送り出せるようになる。さらに衛星放送のBSもデジタルになるので、すでにデジタルで放送しているCSとあわせて、何百チャンネルものテレビ番組が空中を飛んでくることになる。だから、いろいろな番組を送り出すことが技術的には可能になる。
 もう一つの影響は高画質化である。
 要するにデジタル化によって、一度にたくさんの情報が送れるようになるので、多チャンネルにするかわりに、画面のキメを細かくすれば、いまよりもずっときれいな映像を送ることができる。いまのテレビではサッカー選手の背番号を見分けるのは、クローズアップにならないとむずかしいが、これが遠景でも見分けられるほど画面が細かくなる。
 いまテレビ界は、このデジタル化の大波に揺さぶられて、進路が定まらない状況であるらしい。

ソフトとしての利点
 テレビ局にとって大きな問題の一つは、多チャンネルになっても、放送する材料がそんなにない、ということである。テレビ界の人びとは、放送の中身、つまり番組のことを「ソフト」と呼んでいるが、多チャンネル化のためにソフトの争奪戦が始まっている。
 まず目をつけられたのが、昔の映画で、これはおおかた押さえられてしまった。
 次に争奪戦の対象になったのが、スポーツ、なかでも世界中で人気のあるサッカーである。日本以外の各国でリーグ試合のテレビ放映権料が、年間数百億円という単位になったのは、そのためだ。
 テレビのソフトとして、スポーツは映画より都合がいい。
 映画を新しく作るとなると、非常な時間と労力とお金がかかる。しかも1本の映画を、何度も繰り返して見る人は少ない。昔の映画の権利を押さえて放映しても、もう一度、同じものを放映するには、視聴者が忘れたころ、あるいは観客層が入れ替わるころまで、しばらく寝かせておく必要がある。
 その点でスポーツ、とくにサッカーのリーグ試合はいい。 
 新しく作らなくても、すでに各国で毎週毎週、行なわれている。 ルールは同じ、出場選手もほとんど同じだけれども、中身は毎試合変化する。弁当箱の形や大きさが毎日変わったら不便だが、中身のごちそうは、毎日、変わらないとあきてしまう。見慣れた形で中身は新鮮だというところがサッカーの魅力である。

人気全国区が好都合? 
 スポーツのソフトにも、都合の悪い点はある。それはチームは地域的だが放送は全国的だ、ということである。
 衛星テしビの電波は空から降ってくる。これは全国どこででも受けられる。そうなると全国で通用する番組のほうがぐあいがいい。
 たとえば鹿島アントラーズの試合を衛星テレビで放送するとする。茨城県のファンは熱心に見るだろうが、広島のファンはサンフレッチェの試合のほうを見たがるだろう。多チャンネルになるから、両方とも中継することは技術的には可能であるが、テレビ局は全国の人びとみんなが喜んで見てくれる番組を放送したいに違いない。
 そうなると「地域に根ざしたクラブを」というJリーグの理念は、都合の悪いことになる。人気全国区が広域テレビ向きである。
 プロ野球の巨人は、東京のチームではあるが人気全国区である。そうなったのは、オーナーの読売新聞が全国に販路を広げるために巨人を利用したのが一因だろう。
 ところで、いま地上波で放映している民放のキー局も、BSの新しい衛星が打ち上げられてデジタルになる機会に衛星放送にも参加することになった。そうなると、たとえば日本テレビは巨人の試合を衛星波で放送することになるのではないか。巨人は人気全国区だからそれでいいが、地域球団は困ることになる。
 では、どうすればいいか。
 この問題を、もう少し続けて考えてみることにしたい。


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