アーカイブス・ヘッダー

 

   
サッカーマガジン 1999年7月7日号
ビバ!サッカー

2002年のテレビ放映権
大衆が十分楽しめる体制を!

 2002年のサッカーを、ぼくたちはテレビで見ることができるのだろうか。「そりゃ当然」と誰でも思うだろうが、実は、そう簡単ではないらしい。日韓共催のワールドカップを、地元の大衆が楽しめないのなら「日韓足並みをそろえて大会を返上しよう」とさえ言いたい。

交渉は大詰め
 交渉は大詰めらしい。
 日韓共催2002年ワールドカップのテレビ放映権料の話である。
 この原稿を書いている時点で、交渉が大詰めだとすれば、活字になって読者の皆さんが読んでいるころには、もう決着がついているかもしれないが、それでも、この問題は、わが「ビバ!サッカー」で取り上げておく必要があると思う。それに、ほんとのところ、最終的な決着は、そう簡単にはつかないだろうと思っている。
 おおまかに説明すると、こういうことである。
 2002年に日本と韓国を会場にワールドカップが開かれる。これはご案内のとおりである。
  入場券は日本と韓国で売り出される。これにも値段をどうするか、日韓の物価差でバランスがとれるかどうか、などの問題はあるが、ともかく入場料収入は大会の経費にあてることができそうである。
 しかし、いまの世の中、スポーツの収入の大きな部分は入場料ではなくて実はテレビの放映権料である。
 2002年の試合をテレビで放送する権利を、FIFA(フィファ)国際サッカー連盟は、テレビ局ではなく、スイスに本社のあるISLという会社に売った。
 開催国の決まってない2006年まで含めて2大会一括で、米国内での放映権を除いて3000億円に近い途方もない金額である。
 というわけで、2002年のワールドカップを日本でテレビ中継する権利は、ISLが持っている。

2大会で520億円?
 さて――。
 ISLはテレビ会社ではないから、自分たちで試合の映像を作って世界に送り出すわけではない。
 そこでISLは、二つの仕事をしなければならない。
 一つは、試合のテレビ映像を作って世界各国のテレビ局に送り出す仕事をする会社を探すことである。
 これまで日本では、オリンピックなどのときには、NHKが中心になって中継映像を作って送り出していた。しかし、テレビ中継番組を作る能力のある会社は、世界中にたくさんある。2002年のワールドカップで、テレビの映像を作る仕事を、日本のテレビ局がするとは限らないのである。
 ISLのもう一つの仕事は、ワールドカップの試合のテレビ映像を、それぞれの国内で放映するテレビ局を見付けて契約することである。
 ISLは、べらぼーな金額で北米を除く世界中への放映権を買い切ってしまったのだから、それを各国に分売することによって、FIFAに支払う以上の金額を取り戻さなければならない。したがって、各国に提示する全額も、これまたべらぼーなものになる。
 日本に対しては、2002年だけでなく、2006年の大会も含めて6億5000万スイスフランを提示してきた。最近の為替レートでは、およそ520億円である。交渉過程での数字は、ふつうは公表されないものだが、NHKの会長さんが、あまりの高額に憤慨して、記者会見で口走ってしまった。 

一大会160億円の攻防
 これは交渉だから、もちろん駆け引きがある。ISLが提示した金額にも掛け値があるだろうし、NHKの会長さんが、それを公表したのも意図的だったかも知れない。
 ISLの交渉相手は、NHKと民放の連合体だが、NHKがもっとも大きな力を持っている。
 日本側は、まず2大会一括は困る、まず2002年だけについて交渉しようと主張した。おおざっぱに、二つに分けると、およそ260億円になる。
 次にこれを、どこまで引き下げられるかである。
 6月16日にISLのウェーバー会長が「2002年大会については、2億スイスフラン(約160億円)を日本側から期待している」と話した、という報道が韓国のソウルから伝わってきた。
 ISLのほうは、NHK・民放の連合体だけでなく、スカイパーフェクTV!のような民間の有料衛星放送も視野に入れている。「地上波中心のNHK・民放連合がダメなら、ほかにも相手はいますよ」というわけである。競争相手がいることをちらつかせるのは、よくある交渉方法だ。 
 ただし、ヨーロッパと違って日本では有料衛星放送は、まだ普及度が低い。ひとつの番組ごとに視聴料を払うペイパービューに至っては、ほとんどなじみがない。この点はISL側の弱いところである。 
 ぼくとしては、日本の大衆が地元のワールドカップを、テレビで十分に楽しめる体制を作ってほしいと願うだけである。


前の記事へ戻る
アーカイブス目次へ

コピーライツ