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サッカーマガジン 1999年5月19日号
ビバ!サッカー

ユース日本代表の大活躍!
W杯へ、これからが正念場

 ナイジェリアで開かれた世界ユース選手権大会で、ユースの日本代表が決勝に進出した。そこで、このページで連載中の「W杯のメディア対策」を中断して、この快挙を取り上げる。ポイントは、この成果が、日韓共催の2002年ワールドカップにつながるかどうかである。

目標は2002年
 「よかったねえ、すごいねえ、強いねえ」
  ワールドユースで日本が決勝に進出したとき、まわりの人が、例外なく、こう言ってくれた。本当によくやった。ぼくも、そう思う。 
 4月24日の決勝戦では、スペインに0対4で完敗したが、まあ、それもいい。実力以上の世界一を望むのはファンの欲である。スペインのほうが強かった。その事実をかみしめるのも大きな経験だろう。
 ワールドユースは最終目標じゃない。日本のサッカーの課題は、3年後の2002年ワールドカップへ向けて、おとなの日本代表を世界レベルに持っていくことである。いまの日本ユースにとっては、結果よりも経験が重要である。
 準優勝でも、たいしたものだ。
 イングランドやウルグアイを破っての進出である。イングランドはサッカーの母国であり、ウルグアイはワールドカップの名門だ。日本のサッカーが、そういう国に勝つところまで来るとは…。アジアでも最低レベルだったころを知っているオールド・ファンにとっては、夢のようである。 
 テレビで見ていて、日本の若い選手たちはテクニックでは、この大会のどのチームにもひけをとらない、と思った。戦術能力では、十分にトップクラスである。一人一人の判断が、すばやく、柔軟で、的確だ。 
 テクニックは、長年の少年サッカー普及の努力の成果であり、戦術能力の向上には、6年前のJリーグ発足がものをいったと思う。

これからの課題は?
 とはいえ、これで2002年への見通しが明るいかといえば、そうとはいえない。
 決勝戦の前、スペインは日本より格上だなと思っていた。ただし、テレビの画面でスペインの試合ぶりをちらっと見ただけである。その印象では、個人のテクニックと戦術能力では日本とほぼ同じレベルで、動きの「すばやさ」では明らかに日本を上回ってるように見えた。
 「すばやさ」を決めるもとは、筋肉の質である。すばやく収縮する筋繊維の割合が多いほうがいい。これは遺伝で決まるとされていて、日本人の筋肉は一般的に「すばやさ」には向いていないのだそうである。そのかわり、ゆっくりと長続きする筋肉の持ち主は多いという。つまり、日本人は短距離型でなく、マラソン型である。
 日本は島国で混血があまりないから、マラソン型ばかりが生まれ、短距離型が生まれる確率が小さい。サッカーのひとつひとつのプレーでは「すばやさ」がものをいうから、日本が「すばやさ」だけで勝負すると勝ち目は薄い。
 しかし、サッカーでは、戦術的な判断力とチームとしての組織力も大きな要素である。日本は、筋肉の質のハンディを個人の戦術能力とチームとしての組織力で補わなければならない。
 戦術能力を養うために必要なのは高いレベルの試合の経験であり、組織力で重要なのは監督の指導力である。これが2002年への日本の課題だろうと思う。

トルシエ監督への評価
 今回のワールドユースをめぐって、トルシエ監督への評価は右往左往だった。
 日本を出発する前のスポーツ新聞の記事では、トルシエ監督は解任寸前だった。その発端になったのは、予防注射問題である。
 アフリカには伝染病が多いので、旅行者は予防注射をして行く必要がある。ただし、ナイジェリアのビザ(入国査証)をとるために必要な予防注射は黄熱病だけである。ところが日本サッカー協会の医事委員会は用心深くて、ほかの数種の伝染病の予防注射も必要だと言い張った。トルシエ監督が連れていきたいと思った選手のなかに、その予防注射をしていない者がいた。日本サッカー協会は医事委員会の勧告を尊重して、そういう選手をチームに加えることを認めなかった。トルシエ監督は頑強に「代表に入れろ」とがんばって協会と対立した、という話である。
 トルシエ監督は、アフリカで働いた経験がある。だから「そんなに予防注射をしなくても大丈夫だ」というのも信用できそうである。 
 一方、協会の医事委員会は、日本人の体質と健康については専門家の集まりだから、これまた信用するほかはない。
 というわけで、出発前は、なかなかの騒ぎだった。
 だが「勝てば官軍」である。
 ナイジェリアで、ベスト4に進出したあたりから、トルシエ監督への評価は大きく持ち直した。
 契約はあと1年。2002年まで延長するかどうかも焦点である。


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