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サッカーマガジン 1999年4月14日号
ビバ!サッカー

Wカップのメディア論(4)
フランス98の情報提供

 これまでの国際スポーツ大会で、メディアに対する情報提供サービスが、もっとも行き届いていたのは、フランスのワールドカップだろう。その成功は、コンピューターの進歩のおかげだけではなかった。情報を収集し、選択し、配布する仕組みが、見事にととのっていた。

コンピューターのおかげ
 ジャーナリストが記事を書くときに、いろいろな資料が必要になる。そこで、新聞社で働いていたころには、ワールドカップやオリンピックの取材に行くときには、自分で作ったノートやら、新聞雑誌の切り抜きやら、小事典やらを用意して行ったものである。会場から会場へと駆け巡って取材をするのだから、その資料を持ち歩くのがたいへんだった。しかも、持ち歩いている資料が、役に立つことはめったにない。重たい思いをしただけということが多かった。
 ところが、この問題を最近はコンピューターが解決してくれるようになった。インターネットのおかげで、パリにいても東京に置いてある資料が、ほとんどお金をかけないで呼び出せる。
 過去の新聞や雑誌の記事なども、これは有料になるけれども、国境を越えてデータベースで検索できる。パソコンと電話は必要であるが、必要なときに必要な情報だけを探せるのは便利である。
 フランスのワールドカップでは、それも必要ではなかった。パリのメーン・メディアセンターと各競技場に開設されていたメディアセンターに、コンピューターの端末も、電話も用意されていた。電話は有料だが、すべてテレフォンカードで自由に使えるようになっていた。
 コンピューターの端末からは、大会のデータベースである「フランス98」を呼び出すことができた。そのなかには、ワールドカップや出場チームの情報がちゃんと整備されていた。

3種類の情報の蓄積
 「フランス98」で探すことのできる情報には、三つの種類があった。
 第一は、あらかじめ蓄積してあるデータである。
 たとえば、過去のワールドカップの記録とかエピソードがある。フランス大会の予選の記録がある。あるいは参加国の国情やサッカー事情やチームの特徴や選手の略歴などがある。こういうものを、あらかじめ調査し、研究し、取材して取り込んである。いわば歴史や地誌の事典を編集してコンピューターに納めたようなものである。
 こういうデータベースを、あらかじめ作るためには、十分な時間と有能なスタッフが必要だろう。
 第二は、大会期間中に、次つぎに生まれるニュースである。
 これには、いろいろな種類がある。
 大会主催者であるFIFA(国際サッカー連盟)や組織委員会の動向に関するものがある。会議の結果や報道関係への発表などである。
 参加チームの動向に関するものもある。練習や移動や記者会見の内容などである。
 こういう情報は、大会期間中に次つぎに生まれてくるもので、あらかじめ発生を予想できない性質のものもある。こういう情報を、その場、その場で取材し、編集して、コンピューターに取り込むシステムが必要である。
 第三に、試合の記録がある。これは大会期間中に発生する情報ではあるが、あらかじめフォーマットや統計処理の方法を決めておけば、あとはコンピューターがやってくれる。

情報集めのシステム
 いろいろな情報のなかで、ジャーナリストにとって、もっともありがたいのは、チームについての情報である。
 試合は毎日のように各地である。チームは、試合のない日は、それぞれのキャンプ地に戻ってしまう。それを全部追い掛けてカバーすることは不可能である。自分が直接取材することのできない情報をコンピューターから得られるのは、おおいに助かる。
 ところで、コンピューターに入れる情報は誰かが取材して編集しなければならない。
 この仕事は一般の通信社や新聞社が請け負うわけにはいかない。通信社や新聞社は、大会期間中は大忙しである。それだけでなく、通信社や新聞社は、それぞれライバルとして取材競争をしているので、取材したものを契約していない他の報道機関に自由に使われてはたまらない。
 フランスでは、パリ大学のジャーナリズム専攻の学生のなかから、いろいろな国の言葉を使える者を選抜して半年間訓練し、各チームに配属した。学生は各チームの報道担当と協力して情報を集め、ニュースの形で「フランス98」に提供した。ニュースはフランス語、英語、スペイン語で見ることができた。
 いろいろな言葉が飛びかうなかで、これだけの人材と組織をうまく機能させるのは、たいへんである。フランスは、よくやったと思う。
 2002年のために日韓両国は、早くから、この体制作りを準備しておかなくてはならない。


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