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サッカーマガジン 1999年3月31日号
ビバ!サッカー

Wカップのメディア論(2)
情報提供のためのサービス

 世界的なスポーツ競技会のメディア・サービスには、いろいろな要素がある。記者やカメラマンの入国、宿泊、国内での輸送、働く場所の施設、通信手段などである。さらに、情報を提供するサービスがある。これは、たいへんな仕事だが、その重要性はあまり認識されていない。

三つのポイント
 オリンピックやワールドカップのような大きな国際スポーツ大会を成功させるためのポイントが三つあるという。これは、いまから35年前、1964年の東京オリンピックのときに、聞かされた話である。
 三つのポイントは、選手団、VIP、メディアである。この三者を満足させれば、大会は成功だと評価される、というわけである。不思議なことに、この中には観客が抜け落ちている。
 選手たちが重要なことは、言うまでもない。彼らが主役であることは明らかである。しかし、チームや審判の仕事は、国際的に共通なルールにもとづいているから、ワールドカップだからといって、とくに変わった要素があるわけではない。その扱いは難しくはない。 
 VIP(ビップ)と称されるお偉方の扱いが、やっかいなことは確かである。最近、表ざたになった国際オリンピック委員会(IOC)の役員たちの例が示しているように、特権を振り回し、ぜいたくな待遇を求める。地元の主催者のほうも、それに迎合し、豪華な宿舎やお土産を用意する。地元の役員自身も、お偉方は便乗して特権を振り回す。
 しかし、VIPの影響力は、そのスポーツ団体の内部だけに限られているので、社会的に大きな影響力があるわけではない。 
 メディアの扱いは、もっとも難しい。ワールドカップには、世界中の国ぐにから、記者やカメラマンが集まってくる。その面倒を見るのは、ずっとたいへんな仕事である。

フラッシュ・クォーツ
 メディアの人びとが求めているのは、立派なホテルやぜいたくな食事ではない。旅費や宿泊費や食費は自分で払うのだから、これは豪華であるよりも、安価であるほうがいい。そこのところは、VIPとは非常に違う。
 メディアの人びとが欲しいのは、情報である。大会全体の進行状況を知りたい。監督や選手たちの話を聞きたい。これが第一である。
 一方、大会を組織する側は。大会を運営するのに手がいっぱいで、その状況をマスコミに報せるところまでは頭がまわらない。監督や選手については、できるだけ静かな環境で試合に集中させたいから、マスコミの攻勢は、むしろ頭痛の種である。
 しかし、大会のPRとサッカーの普及のためには、マスコミの協力が必要である。その折り合いを、どうつけるかである。
 前号に書いたように、ぼくは3月上旬に前橋で開かれた陸上競技の世界室内選手権で、役員としてメディア・サービスを担当した。
 主な仕事は、フラッシュ・クォーツの提供だった。これは、一つ一つの種目が終わった直後に、金、銀、銅のメダルを獲得した選手の談話を取材して英文で報道陣に提供する仕事である。
 陸上競技では、たくさんの種目が次つぎに行なわれるので、記者席に座っている人たちは、一人一人の談話を取材するひまがない。 そこで、主催者側でチームを組織して、代わって取材して情報を提供した。これがフラッシュ・クォーツである。

プロを集めること
 陸上競技のフラッシュ・クォーツ提供は、やり方が難しい。
 金、銀、銅をとる選手が誰であるか、どの国の言葉をしゃべるかが、あらかじめ分からない。また、質問する内容も競技の様子によって、その場で考えなければならない。
 そういうわけで、インタビューアーは、一人で数カ国語ができて、陸上競技にくわしくて、ジャーナリストとして訓練された人物でなければならない。
 そういう人物はめったにいないから、数人の同じ人物が世界中を駆けめぐって、各地の大会で、この仕事を担当している。前橋の世界室内陸上の場合は、イギリス人、フィンランド人、米国に住んでいるハンガリー人の3人を招いた。
 そのほかに、通訳会社からベテランの英語使いの女性3人に来てもらい、パソコンを使って英語の文章を打ち込み印刷室に送信するオペレーターの仕事をしてもらった。
 外国人3人とオペレーター3人はみなギャラを払って来てもらっている。つまりプロである。
 このような仕事は、実はプロの専門家でなければできない。この部分をシロートのボランティアに頼むのは無理である。
 サッカーと陸上競技では、メディア・サービスの仕組みは、かなり違う。しかし、情報提供の中核になる部分は、やはり専門家でなければならない。サッカーのワールドカップの場合は、会場もチームも各地に分散しているから、それだけの専門家を集めるのが、まず課題になる。


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