アーカイブス・ヘッダー

 

   
サッカーマガジン 1999年2月17日号
ビバ!サッカー

続・五輪のスキャンダル
独占事業の自覚と良識を

 前回に続いてオリンピックのスキャンダルを取り上げる。オリンピックは清く、正しく、美しいと思っているのが、そもそも間違いなので、商業主義がけしからんことはないのだが、スポーツ団体には特別な性格もある。サッカーでも、そこのところは弁えていないと困る。

ホドラー氏の思い出
 今回のオリンピック・スキャンダルの発言は、IOC(国際オリンピック委員会)の理事であるワーク・ホドラー氏の内部告発だった。オリンピック開催地を選ぶ投票にさいして賄賂をもらっている委員がいると記者会見で暴露したのである。
 ホドラー氏は国際スキー連盟の会長を長い間、務めている人である。ぼくは、この人の話に非常に感銘を受けたことがある。
 いまから、およそ30年前、札幌で冬のオリンピックが開かれるときにアルペンスキーの選手たちが、広告に出演して、お金をもらっていると非難されたことがある。当時のIOCのブランデージ会長は頑固なアマチュア主義者で、アルペンスキーのトップクラスの選手を、根こそぎオリンピックから追放しようとした。
 ホドラー会長は、これに抵抗して、こう話してくれた。
 「スキーのできる場所と時期は限られている。選手は雪を求めて、世界中を旅行しながら練習と試合をしなければならない。若い選手が限られた期間にスキーができるようにしてやるのは、われわれスポーツ団体の義務である。そのために、広告を利用して資金を得て、選手を援助するのは当然だ」
 現在では常識的な話だが、当時はこれが非難の的だった。IOCのブランデージ会長は強引にIOC総会をリードして、商業的な活動をしていた選手が30人以上いたなかから、もっとも有名だったカール・シュランツ選手を、見せしめとして札幌から追放した。

競技の独占企業体
 ホドラー氏の考えは「スキー連盟は商業活動を容認する、それはスキーというスポーツの普及と振興のためである」というものだった。
 つまり「スポーツ団体は商業的な活動をすることもあるが、営利団体ではない」というわけである。
 これはイギリス以外のヨーロッパでは、当時から認められていた考え方で、サッカーはとくにそうだった。FIFA(国際サッカー連盟)は、プロフェッショナルの選手もアマチュアの選手も同じように扱って差別しなかった。
 さて、このような活動をするスポーツ団体には、もう一つ、特別な性質がある。
 それは、スポーツ団体は一種の独占企業体だということである。
 FIFAは世界に一つしかない。FIFAに加盟している協会のもとにある団体以外のものが、サッカー競技会を主催したり運営したりすることは禁止されている。
 これは国際法でも、国内法でもないので違反しても違法だということにはならないが、実際にはFIFAの権威が大きいのでFIFAのアンブレラの外に出たら、世界のサッカーから締め出されるのが実情である。これは、スキーでも、ほかの多くのスポーツも同じである。
 つまり、多くのスポーツ団体は事実上「独占企業体」である。ふつうの企業だったら独占禁止法違反は問われても仕方がないところである。
 それが問題にならないのは、スポーツ団体は公共性が強いと認められているからだろう。

サッカーへの警鐘 
 IOCは競技団体ではないが、オリンピックの名声が、あまりにも巨大になっているので、やはり独占企業体の性格を帯びている。オリンピックという名称を他の団体が使えないだけでなく、他の名称で世界的な総合競技会を開こうとしても、とても対抗できないのが実情である。
 テレビの放映権やロゴの使用権を数百億円で独占的に売りながら、独占禁止法の制約を受けないのは、まったく不公正である。それが許されるのは、スポーツの公共性のおかげなのだから、スポーツの商業化をはかるときには、それなりの良識が求められて然るべきだと思う。
 オリンピックのスキャンダルは、その良識のブレーキが効かなかったケースだろう。
 サッカーにとっても、他人事ではない。
 FIFAは世界のサッカーの総元締めとして強力なカルテルを作っている。ワールドカップは、世界のスポーツ界で最大の独占事業である。これを運営するには、利益を求めて群がってくる多くの企業体を巧みに、公正に扱わなければならない。
 スキーのホドラー氏が30年前に言ったように商業化はスポーツをする若者たちのためでなければならない。 
 日韓共催の2002年ワールドカップをめぐって、組織委員会にも開催地の自治体にも、いろいろな広告企業や代理店が群がりはじめている。 
 商業主義が悪いとはいわないが、関係者は、自分たちが独占企業体を公正に運営する責務を担っていることを自覚してもらいたい。


前の記事へ戻る
アーカイブス目次へ

コピーライツ