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サッカーマガジン 1998年12月2日号
ビバ!サッカー

びっくりしたこと三つ

 つぎつぎに、いろんなことが起きるので、週刊のコラムでも追い付けない。日本のサッカーの歴史は、このビバ!サッカーに残しておきたいと思うのだが、書ききれなくなってきた。最近のできごとで、びっくりしたことを三つだけ、書き留めておくことにする。

☆トルシエ監督がキレた?
 日本代表チームのフィリップ・トルシエ監督には、びっくりした。大阪の長居競技場で行なわれた日本対エジプトの試合のときである。
 PKの1点だけで日本の辛勝という結果には驚かない。エジプトは長旅のあと、日本はJリーグのシーズンの途中、注目の的だった中田英寿はイタリアのペルージャから、とんぼ返りで帰国しての出場である。みなコンディションは悪いのだから完全な試合を望むのは無理である。トルシエ監督にとっては日本でのデビュー戦。まだ、選手一人一人の力を見きわめようとしている段階で、勝敗をとやかくいう試合ではない。
 びっくりしたのは、試合の内容ではなくて、試合後の記者会見で一方的にしゃべったあと、質問をいっさい受け付けずに一方的に席を立ったことである。
 伊東輝悦選手のお母さんが亡くなったという報せに感情が高ぶって、質問に答える気持ちになれなかった、という説明だったが、ちょっと説得力がない。なにか不機嫌になる事情があって、キレたのだろうと推察するほかはない。
 分かったことは、トルシエ監督が感情的で、衝動的な人物だということである。これは2002年までを任せるには不安な材料である。
 とはいっても、これまでに明らかになったトルシエ監督の考え方や指導ぶりには、おおむね賛成である。監督としての識見や能力は十分だと思う。問題は、キレやすい性格だとすると、日本の選手のほうがキレてしまわないか、ということである。

☆岡田武史監督の去就
 トルシエ監督の前任者の岡田武史氏はコンサドーレ札幌の監督になるらしい。前から噂されていたのでニュースそのものには驚かない。でも「なぜ、札幌へ」とびっくりした。 
 たまたま、プロ野球でヤクルト・スワローズの監督だった野村克也氏が阪神タイガースの監督になった。
 「うむ、これと似たケースだ」というのが、ぼくの感想である。
阪神からの誘いが報酬4億円だったので、お金にひかれたという、ゲスの勘繰りのような記事が載っていだが、ぼくは違うと思う。野村監督自身が「もう、この歳だから、金銭的な条件には、こだわらない」と就任の記者会見で話している。「安くたっていい」というわけではないだろうが、引き受けた大きな理由はほかにあるだろう。
 考えられる一つの理由は、ユニホームヘの愛着である。この道で功なり名遂げた人ではあるが、現場を去りがたい思いがあるに違いない。
 もう一つの理由は、阪神が最下位だったことである。優勝チームを引き受けると次のシーズンも優勝を求められる。これはたいへんである。 
 最下位チームなら、上に上がる余地が十分あるし、やりがいがある。 
 「弱いチームだから引き受けた」というのが本音じゃないかと考えた。 
 サッカーの岡田監督の場合も、似たような条件である。野村監督ほどの実績はないが、このところ講演などでも引っ張りだこのようだから、金銭的条件よりも、現場への思いと新しいチームを育てようという意欲が強かったのではないか。

☆ヴェルディの読売離れ
 Jリーグのヴェルディの経営から読売新聞社が手を引くという報道には、驚いたというよりショックを受けた。
 読売新聞が49%、日本テレビが49%、よみうりランドが2%を出資しているが、経営を日本テレビに一本化するという話である。
 読売新聞社の渡辺社長は、巨人ファンだけれども、サッカーには、あまり関係がなかった。赤字がどんどん膨らんでいるから、手を引きたくなるのは無理もない。
 もともとヴェルディの母体だった「読売サッカークラブ」が30年前にできたときの推進力は日本テレビのほうだった。日本テレビのスポーツ部にいた笹波昭平(永光)さんという人が、あちこちを説き回って「将来はプロに」とクラブを創設して、初代の事務局長になったのである。
 もちろん、読売グループの総帥だった正力松太郎氏が積極的に賛成してくれたから、できたことである。大正力の娘婿で日本テレビ、読売新聞の社長だった小林興三次氏も将来性を買って支援してくれた。
 なかなかプロができないので「もうやめよう」という意見がグループ内で出たことも何回かある。そのたびに、当時、読売新聞社の社長、会長だった務台光雄氏が「販売経費にくらべれば大きな出費ではない」とかばってくれた。
 ぼくは読売新聞社で働いていたときに、笹波さんに協力して読売クラブの創設のときから関わっていたから、新聞界の大物に守られてきたクラブが、ついに新聞の手を離れるのかと思うと感慨無量である。


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