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サッカーマガジン 1998年11月25日号
ビバ!サッカー

横浜のチームの合併

 日韓共催の2002年ワールドカップへ向けての連載を中断して、現在の問題を取り上げる。新しい事態がつぎつぎに起きるので「あす」のことだけでなく「きょう」のことにも、ひとこと意見を述べてみたいからだ。まずは横浜の2チーム合併問題について。

☆全日空が消える!
 Jリーグの横浜マリノスと横浜フリューゲルスが合併する話は突然だった。10月29日付けの読売新聞朝刊の特だねである。
 立ちゆかなくなったのはフリューゲルスのほうで、実際にはマリノスによる吸収合併である。フリューゲルスのスポンサーは全日空と佐藤工業だったが、この不景気で佐藤工業が下りることになった。それが、きっかけらしい。
 フリューゲルスの前身は、ずっとさかのぼれば、町のアマチュアによるクラブだった。横浜クラブという名前だったが、強くなるにつれて、お金が掛かるようになり、全日空がスポンサーになり、Jリーグの発足のときにフリューゲルスになった。
 こういう生い立ちは、浦和レッズや柏レイソルやジェフユナイテッド市原とは違う。この3チームは、もともとは「丸ノ内御三家」といわれた典型的な会社チームだった。浦和は三菱、柏は日立、市原は古河電工で、そのころの選手は、その会社の社員だった。
 プロをめざしたクラブ組織の元祖はヴェルディで、こちらは「読売サッカークラブ」としてスタートしたときから、選手は社員ではなく契約制だった。しかし、クラブを作ったのは、読売新聞、日本テレビなどの会社で、企業主体である。
 横浜クラブは、もともと市民クラブで、援助を求めて全日空に庇(ひさし)を貸したら、母屋(おもや)をとられ、その母屋が倒壊してしまった。本当の市民クラブから始まったチームが消えたのは残念である。

☆プロ野球の場合は?
 フリューゲルスの悲劇の火種は、どのチームも抱えている。「企業を離れた地域のクラブを」とJリーグが、頭でっかちの理念をかかげていても、各チームの実態は企業依存だからである。
 企業はビジネスだから、利益がなければ、そういつまでもお付き合いはできない。また、母体の経営が危うくなれば、チームの運営を断念するほかはない。それで企業を非難することはできない。
 逆説的に聞こえるかもしれないがプロ野球のほうがJリーグよりも、実は「企業離れ」しており「地域に密着」している。
 いまの「ヤクルト・スワローズ」は、もともとは「国鉄スワローズ」だった。母体の国鉄は大赤字を残して民営化されて、いまはJRである。
 プロ野球チームのほうは、それより前に産経新聞に売り渡されて「サンケイ・アトムズ」になり、さらに産経新聞が経営に苦しんでヤクルトに売り渡された。つまりスポンサーの企業が不景気になっても、球団は生き残っている。
 なぜ球団が生き残るかというと、球団が二つの「財産」を持っているからである。
 プロ野球の球団の財産の一つは、フランチャイズの権利である。スワローズの場合は、東京都を本拠地にして試合をする権利を持っている。
 もう一つの権利は、選手の保有権である。選手は自由に他のチームと契約する権利を持っていない。球団は自分の「財産」として選手を保有している。

☆ホームタウンとは?
 プロ野球の球団にも、親会社がある。巨人は新聞社が、阪神は電鉄会社が経営している。かりに親会社が経営困難になってプロ野球の経営から手を引くことにしたとする。そのときは球団を売ることができる。それは球団が二つの「財産」を持っているからである。その一つが「フランチャイズ」だ。
 「フランチャイズ」はプロ野球機構が設定した「地域権」である。たとえば、東京都を本拠地にするチームは3チームしか加盟させない。広島県を本拠地とするチームは1チームしか加盟させない、というように権利を設定している。これは「営業権」で、他の県をフランチャイズにしている球団は、別の球団のフランチャイズの都府県のなかでは試合を主催することができない。各球団はフランチャイズ権を得てプロ野球機構に加盟している。つまりリーグ加盟は「地域の営業権」の獲得である。
 親会社は、プロ野球経営から手を引くとき、この「地域の営業権」を「選手の保有権」とともに売ることができる。
 Jリーグは「ホームタウン制」と称しているが、ホームタウンは「財産」にはならないようだ。
 横浜フリューゲルスには、財産の実体がなかった。地域権も選手の保有権も売ることができなかった。だからスポンサーが降りたら消滅するほかはなかった。
 Jリーグのホームタウンとは何なのだろうか?
 実体のない理念に過ぎないのだろうか。


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