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サッカーマガジン 1998年11月4日号
ビバ!サッカー

W杯の入場券問題(二)
−2002年に向けてI−

 ワールドカップ・フランス大会で起きた幽霊入場券事件は「発券の重複」でもないし「切符の横流し」でもない。これは大がかりな、国際的な詐欺事件である。悪いのは詐欺の犯人だが、詐欺を仕組まれるような仕組みに弱みがあったことは、今後への教訓としなければならない。

☆犯人は誰か
 日本の6月の新聞を見ると、幽霊入場券事件を当初は「重複発売」であると報道している。つまり、一つの座席に2枚の入場券が発行されたのと類似した出来事のように書いてある。
 ぼくは、東海道新幹線を月に何度も往復するので、新幹線の指定席の重複発売の被害者になったこともある。指定券に印刷されている席に座っていると、同じ番号の指定券を持ったお客さんが、もう一人現れるわけである。これはコンピューターの故障かなにかが原因であって、犯罪ではない。
 しかし、フランス大会の幽霊入場券事件は刑事事件であり、犯罪である。
 犯人は入場券を発売したフランスの組織委員会(CFO)ではない。CFOが二重に切符を発行したわけではない。
 犯人はツアーを組織した旅行業者でもない。旅行業者は入場券が手に入ると信じてお客さんを募集したけれども、入場券は渡されなかった。それは詐欺にあったからである。そういう意味では旅行業者も詐欺の被害者である。
 それでは、犯人は誰か?
 犯人は、CFOから割り当てをもらえないのに、もらっているふりをして、旅行業者をだましたブローカーである。
 あるいは、いくらかの割り当てを得ているが、それを見せてエサにして、それよりも、はるかに多い入場券を売る約束をして、旅行業者をだましたエージェントである。

☆詐欺の仕組みは?
 後者のエージェントの場合は「横流し」のようにみえるが「横流し」とは、本来渡すべきところに渡さないで、ほかに渡した場合をいうので、今回のケースは、これには当たらない。
 犯人のエージェントは、持っている割り当て以上の「ない切符」を売る約束をして前金をもらっていたのであり、また買う約束をしていた旅行業者は、本来、切符をもらうべき立場にいたわけではない。
 それでは、詐欺の仕組みはどうなっていたのか?
 いろいろなケースがあるだろうが、ぼくの推理はこうである。
 CFOは入場券の割り当てを2年前に決めた。全部で265万枚で、配分先は、FIFAとその加盟各国サッカー協会、ワールドカップの公式スポンサー、CFOが権利を与えた海外向けの販売を請け負うエージェント、フランス国内の販売を担当するエージェント、その他である。
 日本の場合、大手の旅行業者は直接の割り当てを受けられなかった。そこで、割り当てを受けている公認代理店やスポンサーに頼んで切符を入手しようとした。
 それだけでは、うまくいかないので、海外の別の業者にツテを求めて、入場券の手配を依頼した。しかし、依頼を受けた海外の業者も、直接に割り当てをもらっていたわけではない。
 結局は、割り当てをもらっている筋に頼むか、中間のブローカーに再手配することになった。
 この複雑な過程のなかで、詐欺が仕組まれたわけである。

☆内部に近い者の犯行
 中間のブローカーが「大丈夫、切符は手に入りますよ」と自信ありげにいい、それにだまされた向きもあったかも知れない。
 しかし、経験十分の大手の旅行会社が、口先だけの約束にだまされるとは思われない。間接的に依頼する場合も、かねてから付き合いがあって信用できる外国の旅行社やツアー受け入れ業者(ランドオペレーター)に依頼したに違いない。8月28日に運輸省が発表した調査は、そのことを示している。
 依頼を受けた外国の業者もまた、信用できるところに再依頼したに違いない。結局、行き着くところは、CFOから割り当てを受けた筋ということになる。割り当てを受けているところなら切符が手に入ると思うのは当然である。つまり内部に身近な者の犯行でなければならない。
 悪いことに、2年前の割り当ては切符の現物ではなかった。現物は偽造を防ぐということで大会直前に発行することになっていた。そのために旅行業者は切符の現物と引き替えに代金を渡すことはできなかった。
 そこで悪質なエージェントは、たとえば日本対アルゼンチンの試合について5千枚の割り当てを持っていたとすれば、それを証明する書類を見せて旅行会社と契約をする。他の旅行会社にも、同じ書類を見せて契約をする。そういう仕組みだろうと思う。契約すれば、旅行業者が安心するのは不自然ではない。
 しかし、相手は、はじめからだますつもりだった。だから、これは詐欺である。


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